2022年7月6日(水)

WEDGE REPORT

2021年11月5日

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 2021年9月以降、朝鮮半島は戦略ミサイルの見本市と化した。衆議院選挙公示日である10月19日にも北朝鮮は日本にミサイルを発射した。多くの日本人にとって、北朝鮮のミサイル発射は、既に慣れっこになってしまっているのが実情ではないか。極めて残念なことである。しかし、最近の北朝鮮によるミサイル開発は、これまでの米国に対する牽制とは異なり、〝ある国〟が引き起こした軍拡に刺激された形で進められていると見ることができる。

 強大化する中国の動向に目を奪われつつある安全保障環境について、「左警戒右見張り」の精神で朝鮮半島の最新情勢についても把握する必要があるだろう。

衆院選告示日に発射された北朝鮮の飛翔体(AP/アフロ)

 米露中に伍した北朝鮮のミサイル開発

 まずは我が国にとって最大級の脅威である北朝鮮のミサイル開発について、今年9月以降に行われた3回の発射(9月30日に発射されたミサイルは対空ミサイルであるため除外)を振り返ってみたい。

【1回目:短距離弾道ミサイル(SRBM)】9月15日、北朝鮮・平安南道陽徳付近の山岳地帯から、新たに編制された「鉄道機動ミサイル連隊」の有蓋貨車が短距離弾道ミサイル(SRBM)を発射した。同連隊について朝鮮中央通信は、今年1月の第8回党大会で決定した新たな国防戦略に基づいて、「同時多発的な集中打撃能力を強化するために組織された」と伝えている。

 これに対して、防衛省はミサイル2発が変則的な軌道で約750キロ飛翔し、日本の排他的経済水域(EEZ)内の能登半島沖約300㌔メートルに落下したと発表した。変則的な軌道とは、低い放物線を描いて飛翔したミサイルが目標直前で再び上昇して落下することを指す。ミサイルの外観と変則的な軌道から、このミサイルはロシア製の短距離弾道ミサイル「イスカンデル」ではないかとの指摘が出ている。

 他方、第二次世界大戦にドイツ軍が使用した列車砲を思い出させる映像に、北朝鮮らしい旧時代的発想と失笑する向きもあったが、北朝鮮の劣悪な道路事情と全土に張り巡らされた坑道陣地の存在を考えれば、むしろ装輪型の輸送起立発射(TEL)よりも機動性と隠密性は向上しているといえる。

【2回目:極超音速ミサイル「火星8号」】9月28日、慈江道から東方に向けて、国防科学院が新たに開発した極超音速ミサイル「火星8号」の発射実験を初めて行なった。労働新聞は「飛行の操縦性と安全性を確かめた」「分離された滑空飛行の弾道誘導機動性や、滑空飛行の特性をはじめ、技術的な指標を確認した」と報じた。

 火星8号は、弾道ミサイルから発射され、大気圏突入後にマッハ5以上の極超音速で滑空飛翔・機動して目標へ到達する「極超音速滑空兵器(HCM:Hypersonic Glide Vehicle)」に分類される。つまり、防御する側にとっては、レーダーで捕捉しづらい低空を迎撃ミサイルよりも高速でミサイルが侵入してくるため、現状では〝お手上げ状態〟でしかない。HCMについては、19年にロシアが「アバンガルド」を実戦配備し、中国が軍事パレードで「DF17」を公開したことが確認されている。

 HCMについて防衛省は、令和元年度と令和2年度『防衛白書』で、米国、中国およびロシアが同兵器を開発している旨を記述していた。北朝鮮が極超音速ミサイルの開発を行い、ある程度の成功を納めたのが事実であれば、日本と米国は北朝鮮の開発状況を全く察知できていなかったことを意味する。北朝鮮側に立てば、日米を出し抜いてHCMトップ集団に立ったといえるだろう。

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