2024年12月23日(月)

WEDGE REPORT

2021年11月5日

 反日とも通じる文在寅大統領の対北政策

 金正恩氏が経済発展を犠牲にしてまで核・ミサイル開発を推し進める理由は、端的に言えば、それらが最大の抑止力になると考えているからだ。ゆえに韓国のミサイル開発が象徴する南北の軍事バランスの変化から金正恩氏が想像することは、冷戦時代に米ソが核軍拡を進めた結果、軍拡の負担に耐えられなくなったソ連が崩壊したという構図だろう。

 では、金正恩氏が恐れるほどの軍備強化について、韓国はどのような方針や意図を持っているのだろうか。文在寅大統領が18年10月に打ち出した「国防改革2.0」に、その答えがある。国防改革2.0とは、盧武鉉政権が策定した「国防改革2020」をプロトタイプとして、それを補完するために策定された政策で、少子化を背景とする兵力削減、有事に在韓米軍司令官が韓国軍を指揮する作戦統制権(OPCON)の韓国側への移管を土台にして、軍の構造と国防運営、兵営文化、防衛産業の4分野を改革の対象とする。その中で朝鮮半島の軍事バランスに大きな影響を与えたのが「3軸体系戦力」の構築だ。

 3軸体系戦力とは、北朝鮮の核・ミサイル戦力を無力化するための手段として、①ミサイル攻撃の兆候を早期に察知して先制攻撃する「キル・チェーン」、②ミサイル迎撃システム「韓国型ミサイル防衛(KAMD)」、③攻撃に対する報復として金正恩氏など指導部を攻撃する「大量反撃報復(KMPR)」で構成される。

 韓国・国防部は19年1月、北朝鮮を刺激するなどとの理由から、名称を「核・WMD(大量破壊兵器)対応体系」に変更したが、3軸体系戦力の構築は文在寅政権で着々と進行している。金正恩氏が恐れるステルス戦闘機はキル・チェーンの主役だし、玄武ミサイルはまさに大量反撃報復の手段そのものだといえる。

親北姿勢を示す文在寅が国防費を増加しているワケ

 ここまで書くと、日本の保守論壇が代表する声、つまり、親北姿勢を示す文在寅大統領が、なぜ金正恩氏が恐れるほどの軍備強化を推進するのかという本質的な疑問が残るだろう。正直に言えば、それは文在寅大統領と政権中枢を構成するブレインに聞かなければわからない。しかし、過激な民主化運動を闘い抜いて政権を奪取した彼らに共通する、自主・民主・人権を絶対的な理念とすることにヒントが隠されている。

 民主化運動の闘士であった文在寅大統領とブレインは、それら理念を掲げて軍事政権と闘い政権を勝ち取ったという成功体験を持っている。そのような彼らにとって北朝鮮は、自主・民主・人権の理念が浸透されていない、「解放」してあげなければならない国家というものだ。その証左に文在寅大統領は就任以前から「朝鮮半島問題は韓国が主導的に解決しなければならない」という点を強調しており、それは「朝鮮半島運転者論」と例えられている。

 文在寅大統領は「正義」と「道徳優位性」を掲げて、日本との関係を拗れに拗れされたが、それと同様の姿勢が北朝鮮に対しても向けられていると言えば理解が容易になるのではないだろうか。日本に対しては慰安婦・徴用工問題や日韓秘密軍事情報保護協定(GSOMIA)破棄を武器にして圧力を加えるのと同じく、北朝鮮に対しては北の抑止力を無力化する3軸体系戦力を武器にして対峙している。文在寅大統領は、李明博政権で平均5.2%、朴槿恵政権で平均4.1%であった国防費増加率を平均7.5%にまで高めた。

 正義を振りかざす文在寅大統領は、北東アジアを平和に導く運転手であるのか、それとも軍拡の旗手であるのか。いずれにしても、来年3月には次の大統領にバトンは手渡される。我々に必要な視点は、北朝鮮と韓国をコインの表裏として同時に観察し、それらが相互にどのように影響し合っているのかを冷静に判断することだろう。

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