2024年11月22日(金)

Wedge OPINION

2021年12月22日

 ヤンキン氏の勝利をみるに、共和党は中間選挙においてバージニア州のような激戦州で戦うための二つの戦略を掴んだように思える。プランAでは、共和党の保守基盤層を確保する目的で、反民主党左派・急進派のメッセージを強く発信した。具体的には、米国の建国以来の思想と制度を人種差別的だとして攻撃する「批判的人種論」を学校で教えることに強く異を唱えた。マコーリフ氏が人種に関する論争に関連して9月の討論会で「学校が何を教えるかについて親が指示するべきではない」と失言した場面を繰り返しテレビ広告で放送したのは効果的だった。

 プランBでは、トランプ氏とは一定の距離を置き、「トランプ」にアレルギーを感じる中間浮動層から支持者を獲得した。トランプ氏の支持は取り込む一方で、同氏が選挙応援でバージニア州を訪れても行動を別にした。このためマコーリフ氏が、ヤンキン氏をトランプ氏と結び付けて批判したにもかかわらず、効果はなかった。

 ヤンキン氏が二つのプランを活用する戦略を導入した一方で、マコーリフ氏はトランプ批判をした上で、オバマ元大統領やバイデン大統領を送り込む〝旧態依然〟の戦略しか用意できなかった。バージニア州知事選は中間選挙の激戦州における投票行動を占う試金石と見られていただけに、そのショックは大きかったはずだ。

 同日行われたニュージャージー州知事選でも、前回の大統領選でバイデン大統領が15㌽差で勝利したにもかかわらず、「楽勝」と予想されていた民主党現職のマーフィー知事が約1㌽差で勝利し「辛勝」もいいところだった。

目立つ左傾化と大局観の欠如
将来が混沌とするバイデン政権

 バイデン氏にとって難しいのは、党内の左派・急進派に寄り添うことで国内の文化・価値面の政策課題への対応が目立つことだ。バイデン氏が強調する「マイノリティー擁護」がその代表例だが、多様性に関して寛容でありたいと願う米国人の中にも、マイノリティーならば良いという風潮には違和感を持つ人々がいる。

 例えばバージニア州知事選では、学校において「性的マイノリティーの生徒」が使用するトイレを自由に選べるようにすべきか否かが大きな話題の一つになったが、知事候補には州全体を睨んだ大局観のある議論を望む声も多かった。バイデン氏が国内外の政策課題で実績を上げるためには、党内の左派・急進派の支持をつなぎ留めながら、国家的見地に立った大局観のある政策に取り組むことが必要だ。

 79歳のバイデン氏は、大統領の史上最高齢を更新中だ。「年齢」や「健康」について疑問が呈されているが、「働き盛り」とは言えないことは自明である。実際、新型コロナの感染リスクも含め、大統領を疲弊させないことはホワイトハウスの命題になっている。

 11月19日にバイデン氏が腸の内視鏡検査を行った際には、85分間にわたって大統領権限がハリス副大統領に委譲された。しかし、ハリス副大統領は政権発足後、担当した移民政策などで実績が上がらず、存在感も薄い。民主党内も次期大統領候補はハリス副大統領という合意があるとはお世辞にも言えない状況で、バイデン政権の将来は混沌としている。

 トランプ前政権のアンチテーゼとして発足したバイデン政権だが、バイデン氏は中国に対する強硬姿勢はそのまま引き継いだ。米国が中国の位置付けを「戦後、先進工業民主主義国と共に築き上げてきた国際秩序と、国際社会における米国の指導的地位に対する最も危険な挑戦者」としたからだ。米中間の対立は冷戦時の旧ソ連とは異なり、経済面での深い関係がある一方で、安全保障、通商、供給網、先端技術、データ流通など広範囲に及ぶ本質的なものであり、両国の戦略的競争が長期化することは確実だ。

 前述のように、バイデン氏は中国との戦略的競争を進める上で、同盟国との関係強化を進めた。米国は経済規模で30年頃には中国に抜かれると目されている。いくら米国と言えど、もはや一国だけでは強大な中国と対峙することは困難であり、先進工業民主主義国を中心とした同盟国や友好国の総和で中国を抑制する考えだ。

 中国は一人っ子政策の影響により歪な人口動態のため、既に生産労働人口は減少に転じており、50年頃には移民を受け入れている米国が再び経済規模で中国を抜くとも見込まれている。米国と同盟国・友好国はそれまで分断されないよう、一致団結して中国と向き合うことが重要になる。


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