今こそ日本の出番
〝信頼に足るパートナー〟へ
日本が米国の真の同盟国として自国と地域の安全、平和、繁栄を守るためには、地政学的に中国に最も近い〝信頼に足るパートナー〟として振る舞うことが求められる。具体的には、自由、民主主義、法治、市場経済など米国と共通する価値観を共有しながら、中国からの総合的国力と革新的技術を背景とした次世代型の脅威に対抗できるようにする必要がある。
軍事面の安全保障と経済・先端技術面の安全保障を両輪として組み合わせ、新しい脅威に対抗できるような言わば〝バージョンアップ〟した日米同盟の構築を働きかけるべきだ。バイデン政権は国家安全保障戦略の暫定的な指針を3月に発表したが、正式な戦略の策定は進行中で、日本からの積極的なインプットが望まれる。
日米同盟の喫緊の課題は台湾の政治、経済、社会を中国の圧力から守ることだ。失言か意図的かは定かでないが、バイデン氏は「台湾を守ることは米国の責任だ」と複数回述べている。いずれも報道官らが「米国の政策(戦略的曖昧さ)に変更はない」と訂正したが、米国政府の高官や連邦議員の訪問も増えており、従来以上に踏み込んだ交流が常態化しつつある。
21年3月、デービッドソン・インド太平洋軍司令官(当時)は「中国による6年以内の台湾進攻の恐れがある」と上院軍事委員会で証言した。近い将来に軍事的衝突があるという予想は少数派だが、有事を想定した日米同盟の枠組みにおける在日米軍の役割、自衛隊の後方支援、台湾との軍事連携の内容など、具体的な議論と調整を進めるべきだ。
中国と台湾は9月に前後して環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)への加盟を申請した。2月には英国がCPTPPへの加盟を申請済みだ。キャンベル・インド太平洋調整官は、中国の加盟申請は陽動作戦ではなく真剣なものであり、一部の加盟国とは話し合いも始まっていると警戒している。だが、TPPから離脱し国内情勢から復帰の目途もない米国には何の資格もない。一方で、日本は米国の代弁ができる対等なパートナー国として、政治と経済の両面で価値観を共有している台湾と英国の加盟を前向きに支援することが望ましい。
米国の離脱後、日本は自発的に指導力を発揮してCPTPPを実現に漕ぎつけた。ワシントンでは「日本が米国抜きで自発的に指導力を発揮して多角的交渉をまとめた」という驚きの声が上がり、「従来の日本では考えられなかったことだ」と日本の国際社会における役割と能力が新たに認識された。
日本と交渉の場では激しくやりあったフローマン通商代表(当時)でさえ、CPTPP交渉合意後のシンクタンクでの会合で、出席していた日本人外交官に対して、予想もしていなかったという表情で謝意を述べた。米国が国内で社会の分断と民主主義の危機という深刻な政治課題に直面する中、また、中国には同盟国と協調して対応せざるを得ない状況の中で、軍事・経済両面の安全保障で日本が日米同盟を重視しながら主体的に動くことを肯定的に捉えている。
日本の視点からは、中国の脅威に加え、核保有国となった北朝鮮の脅威、米国との同盟関係が揺らぐ韓国の不安などを考慮し、日本人が戦後一貫して向き合うことを先送りしてきた軍事と経済両面の安全保障の危機に現実的に対応することが重要だ。岸田文雄首相の国家の最高指導者としての心構えが問われている。
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