「分かっていたが、自殺を止められずにやるせない思いでいっぱいでした」
西日本でネットに絡んだいじめの相談受付や啓発活動に取り組んでいる小学校の元校長は、昨年、ネット掲示板に元教え子の女子高生を誹謗中傷する書き込みを見つけた。メールや電話でなんとか本人に連絡を取ろうとしたが叶わず、書き込みを発見してから2週間後に女子高生は自ら命を絶った。
文部科学省が昨年9月に発表した問題行動調査によると、「パソコンや携帯電話等で誹謗中傷や嫌なことをされる」件数がいじめ全体に占める割合は4.3%。一見少ないようにも見えるが、ネット上の誹謗中傷はいじめとして顕在化することが少ないのが実態だ。前述のケースも遺族からの要望で「病死」という扱いで処理された。元校長は警察から「同じように処理される自殺は他にもある」と聞かされた。
「生徒をはらませた」
いまやネットいじめは子どもたちの間だけの問題ではない。「先生いじめ」にまで及んでいる。ある学校では、子どもたちが気に入らない先生になりすましてネット上で不適切な書き込みをし、それを教育委員会に自ら通報。先生は転校を余儀なくされた。が、話はここで終わらない。
子どもたちはネットを介して「生徒をはらませて(妊娠させて)いられなくなったセンコウ(先生)がそっちに行くから」と転校先の子どもたちに「いじめ」をバトンタッチ。転校先の学校でも先生は子どもたちから執拗ないじめをうけ、結局心の病を患い入院する羽目になった。先生が「自分が今度はターゲットになるかも」と子どもの顔色を伺わなければならないほど子どもによるネットいじめは深刻な状況になっている。
パトロール、監視の限界
ネットいじめをなくそうと教育現場では様々な対策を講じている。とりわけ情報モラル教育などの啓発活動と合わせて力を入れているのが、早い段階でいじめの芽を摘むためのネット監視だ。神奈川県横浜市では2005年ごろから各学校の生徒指導専任教諭らがネット掲示板を自主的にパトロールしている。
教諭にとって自己の時間を使ったネット監視の負担は重い。監視対象となる2ちゃんねるなどのいわゆる「学校裏サイト」は11万以上もあると言われている。横浜市では担任する学級がなく、授業時間も週10時間以内と決められた専任教諭がいたからなんとか監視ができた。授業や部活動以外に担任する学級の保護者からのクレーム対応、教育委員会への報告書作成など校務に忙殺される一般教諭に、これだけの数のサイトを監視させるのは不可能に近い。