2022年12月8日(木)

家庭医の日常

2021年12月25日

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葛西龍樹 (かっさい・りゅうき)

福島県立医科大学 医学部 地域・家庭医療学講座主任教授

1984年北海道大学医学部卒業。北海道家庭医療学センター設立および所長を経て、2006年から現職。英国家庭医学会 最高名誉正会員・専門医(FRCGP)。日本プライマリ・ケア連合学会監事。著書に『医療大転換 ─日本のプライマリ・ケア革命』(ちくま新書)など多数。

「小児期」は何歳までなのか?

 脳性麻痺などの小児期に起こる慢性疾患の診療上の大きな課題の一つに、患者が何歳になるまで小児科医が診療に関わるか、というものがある。通常日本では中学生(15歳)までを小児科の診療対象とすることが一般的である。ただ、慢性疾患を抱えた患者が15歳になっても、さらに成人期に入っても、適切なケアを小児科医から引き継いで成人期の患者を診る医師が見つからないことが多いのだ。

 2006年に日本小児科学会は、小児科が診療する対象年齢を15歳から「成人するまで」に引き上げること、そして、そのための運動を全国的に展開することを決定した。この運動がその後どの程度浸透したのかはわからない。

 一方で22年4月1日から民法改正によって、成人年齢が20歳から18歳に引き下げられた。それによって、日本小児科学会がめざす小児科の対象年齢の下限も20歳から18歳へ引き下げになったのかもわからない。いずれにしてもYくんの年齢はその境をはるかに超えている。

 14年、日本小児科学会では「小児期発症疾患を有する患者の移行期医療に関する提言」を発表している。そこでは「小児期医療から成人期医療へ移行する間で、これら2つの医療の担い手が、シームレスな医療を提供することが期待される」にもかかわらず、日本で成人を対象とする診療科を含めた「議論の深まりとコンセンサス形成という点では、未だ不十分な状態」であり、移行期医療の実現への道のりが険しい状況であることが伝わってくる。

必要となる家庭医の役割と活動

 K総合病院小児科のM医師から、Yくんのケアを引き継いでもらえないだろうかという相談を受けたのは6年前だ。当時はまだ「キャリーオーバー」という言葉を使用していたと思う。小児期の疾患を成人期へ「繰り越す」という意味合いだ。

 そのネガティブなニュアンスを嫌って、現在では「キャリーオーバー」に代わって「移行」を意味するtransitionを使用することが米国の専門家を中心に好まれている。そのため前述の「提言」のようにこの医療は「移行期医療」と呼ばれるが、この言葉だと「繰り越された」問題の深刻さが失われてしまうように感じるのは私だけだろうか。

 プライマリ・ヘルス・ケア(PHC、これについてはまた別の機会に話したい)の整備と家庭医の育成が進んでいる国々では、移行期医療の要は家庭医と多職種専門職を含むPHCチームである。あらゆる年齢の人たちをケアの対象とし、必要な場合には特定の分野の専門家に相談・紹介したりケアチームの一員として一緒に診ていくことができるからだ。

 小児期に起こる慢性疾患を熱心にケアするM医師は、ようやくこの地域での診療基盤ができてきた私たち家庭医の役割と活動に最初から関心を持ってくれており、今回のオファーになったのだ。引き継ぎを希望する患者のリストの中にYくんがいた。こうして、Yくんと私たちとの付き合いが始まった。

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