未来を拓く貧困対策

2021年12月31日

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大山典宏 (おおやま・のりひろ)

高千穂大学人間科学部准教授

1974年生まれ。社会福祉士。日本社会事業大学大学院福祉マネジメント研究科修了。福祉事務所や児童相談所での相談業務、生活保護利用者の自立支援事業の企画運営等の行政経験を経て、現職。著書に『隠された貧困』(扶桑社新書)『生活保護vs子どもの貧困』(PHP新書)『生活保護vsワーキングプア』(PHP新書)など。

 次に、支援制度を利用していない理由をみていこう(図2)。就学援助、生活保護、生活困窮者の自立支援窓口、児童扶養手当は、どれも7割から8割の人が、「制度の対象外(収入等の条件を満たさない)だと思うから」と回答している。たとえば、就学援助や児童扶養手当については利用率が約5割であり、所得要件やそもそもひとり親ではないという理由から制度の対象外となることはありうる。しかし、生活保護や生活困窮者の自立支援相談窓口において、7割を超える人たちが「制度の対象外」となることはありえない。

 

 まず、生活保護についてみていこう。先に述べたように、貧困層の収入基準の上限と生活保護基準はおおむね均衡している。生活保護は複雑な仕組みであると言われるが、根幹の部分はシンプルな制度である。世帯収入が国で定める最低生活基準を下回る場合に足りない部分が保護費として支給される。

 たしかに、預貯金が何百万円もある場合には申請は却下されるし、住宅ローン付きの持ち家や自家用車がある場合には処分を求められることがある。しかし、それ以外の要件は、実は法令上それほど厳しいものではない。9割を超える「利用したことがない」人たちは、申請すれば相当数が生活保護を利用できるのである。

 また、生活困窮者の自立支援相談窓口はそもそも所得要件がなく、生活に困っていれば誰でも相談できる。相談者を排除しないことを売り文句にはじめた制度が、利用者にほとんど認知されていないというのは、何とも皮肉な話である。

 これまでの調査では、貧困世帯の厳しい生活状況を明らかにすることには熱心だったが、それをどう解決するのかという視点に欠けていた。今回の調査では、生活保護に代表される救済策を利用していない世帯が相当数にのぼること、そして、その多くが自分は制度の対象外だと考えていることが明らかになった。つまり、制度の補足率の低さがはっきりと示されたのである。

 対策は誰でも思いつく簡単なものである。国や自治体が「あなたは生活保護が利用できます。ぜひ申請してください」と呼びかけることである。また、「何が申請を阻害しているのか」を調べ、より利用しやすい制度にするための方策を考えていくことである。

オープン・アクセスで浮かび上がる自治体間格差

 どの報道機関も触れていないが、報告書にはもう一つ、ターニング・ポイントとなりうる重要な要素が存在する。それが、個別の調査票情報へのオープン・アクセスである。

 個別の調査票情報にアクセスできれば、生活保護基準以下の収入の人のうち、「制度の対象外だと思うから」と回答する人の数、その属性の特徴も把握できるようになる。制度を知らないがゆえに、食事が買えなかったり、進学をあきらめる子どもの割合もわかる。

 子どもの貧困対策が進まない要因の一つに、せっかく自治体がデータを集めても、調査票情報が公開されないという問題があった。19年2月には、日本は国連子どもの権利委員会から、子どもの貧困などに関するデータ収集システムを改善するとともに、当該データを政策立案およびプログラム策定のために活用するよう勧告を受けている。今回の調査で収集した調査票情報は、統計法に基づき、学術研究者らが研究分析に用いることが可能となっている。

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