2024年11月22日(金)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2022年1月4日

 2つの労働市場を分けている要素は色々あるが、その大前提となるのは1つのシンプルな原則だ。それは、残業手当のつく「一般職」には本人の事前の同意なくしては残業を命令できない、ということである。この原則には裏返しの事実が伴っている。原則として、残業手当のつく「一般職」は残業をしないのだ。

 また、この「一般職」は、地域の雇用であり転勤がないのが通常である。また、本人の同意がなければ出張もない。更に言えば、終身雇用制度はとっくに崩壊しているように見える米国であるが、多くの場合は職種別組合が控えていることもあって、「一般職」の解雇には経営側は慎重にならざるを得ない。無茶な解雇をすると、組合が怒鳴り込んでくるし、巨大な訴訟リスクもある。

 その代わり、「一般職」の年収は高くない。フルタイムの場合でも時給は新たな最低賃金である15ドル(約1700円)近辺であり、年収ベースでは3万2000ドル(約365万円)がスタートラインであり、昇給していっても8万ドル(約912万円)程度で頭打ちである(例外もある)。

 勤務内容も「一般職」の場合は、権限の低い定型業務が主となっている。ハッキリ申し上げて、この「一般職」の生産性は決して高くはない。マネジメントが強力なので、不要な配置はせず、職務記述書に従って雇用して業務効率を高めるようにしているだけであり、このレベルの従業員集団同士を比較したら、アジア諸国には完全に負けるであろう。

「働くときは働く」管理職・専門職

 ところが、もう一つの集団である「管理職・専門職」の場合は、全てが違う。まず、時間管理をしないのが普通であるし、職種によっては出張も多い。場合によっては海外出張もある。また、本人の同意が必要だが転勤という可能性もある。

 この「管理職・専門職」については、成果主義が徹底しているので、個人の業績が不振の場合は即時解雇ということが頻繁にある。勤務中に上司に呼ばれて解雇を告知され、1時間半以内に退社するよう指示される。

 私物の整理をしているうちに1時間半が過ぎると、警備員が退去を促し、その時点で会社のメールアドレスも情報アクセス権も消滅、などというのは実は米国では当たり前の世界である。繰り返しになるが、これも「管理職・専門職」に限る。

 その代わり、「管理職・専門職」の報酬は高い。大企業の場合、年俸はインフレ化している。以前は7万ドル(約800万円)近辺からのスタートだったが、シリコンバレーのエンジニアでは、14万ドル(約1600万円)の大卒初任給という水準が当たり前となっており、その他の職種も軒並み上昇している。それこそ最高経営責任者(CEO)にでもなればマルチミリオン(円で言うと数億単位)とか10ミリオンという年俸にストックオプションがつくということになる。

 高報酬が保証される一方で、成果主義が徹底しており、パフォーマンスが悪ければ即時解雇もあるのが「管理職・専門職」であるが、その働き方は原則としてかなりフレキシブルである。まず、時間管理がなく、本人の裁量性が高い。つまり、勤務時間は必ずしも「9時から5時」とは言えないのである。コロナ禍の中で在宅勤務が主流となったわけだが、そもそも米国の「管理職・専門職」の場合は、コロナ以前の段階でも在宅勤務は流行していた。


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