2024年4月20日(土)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2022年1月4日

 意外に思われるかもしれないが、管理職・専門職の場合は成果要求が厳しくなっているために労働時間がどんどん長くなっている。コロナ禍以前の話だが、通勤電車の中でPCで仕事というのは当たり前だった。また、休日でもメールチェックをする、在宅勤務の場合に子どもが寝静まった深夜に作業をする、というケースも極めて一般的である。

 だが、そうした過酷な勤務を自分の才覚でこなしてゆく人間には、高収入という見返りも含めてやり甲斐があるということになる。いつでも解雇される危険と隣あわせだが、そのリスクを背負う覚悟のある人間で構成されているのが、この「管理職・専門職」の労働市場だ。

大学時から身に付けさせられる「厳格な締め切り」

 この米国の「管理職・専門職」の勤務姿勢を象徴する言葉が2つある。「ハード・デッドライン」と「エフェクティブ・イミーディエトリ」である。

 まず「ハード・デッドライン」だが、要するに「厳格な締め切り」という意味だ。反対語は「ソフト・デッドライン」でこちらは多少遅れてもいい締め切りだが、「ハード」になると非常に厳しい。この「ハード」な締め切りを守ることで、例えば連邦政府の予算執行から、アップル社の新製品発表まで、米国の社会は経済のペースを落とさずに進むのである。

 確認だが、どんなに新製品発表会の日程が厳格で、その新製品の発売日までの調達が絶対であっても、米国の場合は、その締め切りを守るために「ノン・エグゼンプト」に残業を強いることはできない。これは、米国資本主義のルールである。その代わり、「管理職・専門職」は知恵の限りを絞り、徹底した討議とコミュニケーションを通じて事業計画のスケジュールを死守するのだ。

 米国の教育では、中高から大学まで宿題を重視する。そして締め切りを非常に厳格に設定する。近年では、高校や大学になると、電子的にエッセイやレポートを提出させることが多いが、締め切りに1秒でも遅れると大減点になる。これは米国社会における「ハード・デッドライン」の重要性を学ばせるためにやっているのだ。

 反対に、「ハード・デッドライン」を守る中では、ギリギリまで「質の追求」を推奨する文化もある。凡庸な成果をサッサと提出してもまるで評価されないのだ。

すぐに動く

 もう一つの「エフェクティブ・イミーディエトリ」というのは「即時実施」ということだ。日本では、制度改正や組織変更には必ず周知期間を置くことになっているが、米国では「必要な措置」であれば「即時実施」をすることがある。

 例えば、理由があって経営者が辞任する場合は、即時辞任となるのが普通だ。また、企業の合併・買収(M&A)による経営統合なども即時実施ということがある。看板の書き換えが間に合わず新会社の社名を記した紙を貼って営業などというのは、日本ではまず見ないが、米国ではそうしてでも統合のスピードを速めることがある。

 こうしたケースでは、当然「管理職・専門職」はフル回転させられる。例えば、米国で同業間の合併がされる場合は、間接部門は「2つを1つにして効率化」となるのが通例であるので、半分は合併と同時に解雇される。そして残ったチームが、新会社の経営システムの最適化に取り組むというわけだ。


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