2023年2月5日(日)

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2022年1月7日

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小黒一正 (おぐろ・かずまさ)

法政大学経済学部 教授

1974年生まれ。専門は公共経済学。京都大学理学部卒業、一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)。財務省財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授などを経て、2015年4月より現職。近著に『日本経済の再構築』(日本経済新聞出版社)など。

20歳から毎月2万の積立で
老後2000万の金融資産に

 確かにその気持ちは分かるが、ここでちょっと簡単な問題を考えてもらいたい。毎月2万円ずつ40年間、年間の運用利回りが4%の金融商品(例:投資信託)に投資を続けた場合、40年後の金融資産残高はどうなるか、という問題だ。

 投資総額は960万円(=月2万円×12か月×40年)だが、簡単な計算により、40年後にはその約2.4倍の2280万円が貯蓄できることが分かる。すなわち、20歳から毎月2万円ずつの積立をし、それなりの利回りがあれば、60歳の時点で2000万円超の金融資産を蓄えることも可能なわけだ。

 このような可能性に気づき、老後の資産形成のために株式投資などを始める若い世代も増えてきている。もっとも、「老後2000万円」問題は現在の高齢世代の話で、現在の若い世代が高齢者になる時の公的年金は実質的に更に目減りし、「老後3000万円」問題などに発展している可能性も否定できない。

年金が将来目減りすると
積立必要額はどう変動するのか

 では、このように若い世代が将来に受け取る公的年金の給付月額が現在よりもX万円減ると予測した場合、毎月どの程度の積立が追加で必要なのか。それを一覧にしたものが以下の図表だ。

 例えば、3%の運用利回りで40年間の積立を行う場合、月額1万円分の減少を補填するために必要な積立は、月額0.4万円である。また、5%の運用利回りで30年間の積立を行う場合、必要な積立は月額0.45万円である。

30年後の年金給付は
約2割減少する見込み

 「現役男性の平均的な手取り収入に対するモデル世帯(注:モデル世帯とは、夫が厚生年金に加入して男性の平均的な収入で40年間働き、その配偶者である妻が40年間専業主婦である世帯をいう)での年金の給付水準の割合」を「所得代替率」と呼ぶが、公的年金における19年の財政検証では、高成長を前提とするケースでも、現在61.7%の所得代替率は50.8%~51.9%に低下し、約30年後の給付水準は約2割減となることを明らかにしている。

 仮に高齢夫婦世帯の1カ月の平均支出額が既述の26.4万円とすると、必要な積立額はどう計算できるか。モデル世帯の年金は月額22万円なので、その2割である4.4万円の減少を予測し、30年間の積立かつ5%の運用利回りでこの減少分を補填する場合、毎月必要な積立は1.98万円(=4.4×0.45万円)と計算できる。30年間の積立かつ2%の運用利回りなら、毎月3.25万円(=4.4×0.74万円)の積立を行えば、公的年金の減少分を補填できる計算となる。

 次に、②の意味は何か。公的年金の機能が縮小するなか、私的年金などの貯蓄が重要となるのは日本のみでなく、英国など他の先進国でも似た状況にある。その結果、公的年金のほか、様々な私的年金などに加入することになるが、自分自身の公的年金や私的年金などの状況を一元的に把握できていない人々も多数出てきているという問題が起こっている。

自身の年金情報を
一元的に把握できる仕組みを

 このような問題を解決するため、英国では「年金ダッシュボード」という仕組みを構築し、その充実に努めている。ダッシュボードとは、元々は自動車の「計器盤」のことをいい、複数の情報を一括して表示するツールを指すが、年金ダッシュボードとは、公的年金や私的年金を含め、65歳時点での推計年金所得の総額やその詳細など、自分自身の年金情報などを一元的に把握できる仕組みをいう。

 あまり知られていないが、日本でも、厚生労働省の年金広報検討会を中心に議論が始まっており、日本版「年金ダッシュボード」の構築に向けて、「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(21年6月18日閣議決定)にて、「公的年金、私的年金を通じて、個々人の現在の状況と将来の見通しを全体として「見える化」し、老後の生活設計をより具体的にイメージできるようにするための仕組みである年金簡易試算Webについて、22年4月の運用開始を目指し、21年度前半に開発、同年度後半にテスト(運用実験)を行う」旨の記載がされている。


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