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2022年1月7日

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小黒一正 (おぐろ・かずまさ)

法政大学経済学部 教授

1974年生まれ。専門は公共経済学。京都大学理学部卒業、一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)。財務省財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授などを経て、2015年4月より現職。近著に『日本経済の再構築』(日本経済新聞出版社)など。

Yusuke Ide / Mono / iStock / Getty Images Plus

 少子高齢化の進展や厳しい財政事情の中、老後の生活保障を担う公的年金の機能が縮小する方向にあり、老後に向けた資産形成を促すための「仕掛けづくり」の重要性が一層高まってきている。

 この関係で、金融庁が2019年6月に公表した報告書「高齢社会における資産形成・管理」が指摘した問題を覚えているだろうか。いわゆる「(公的年金のみでは)老後2000万円足りない」という問題で、テレビや新聞では一時的に大騒ぎになった。

 この報告書が指摘した内容は、多くの有識者から「公表以前から分かっていた事実」という指摘もあり、老後資金が不足する問題にわれわれがどう対処するのかといった議論の方が重要だろう。しかしながら、その後、解決に向けた議論が進展したかというと、2年超も経過したにもかかわらず、本質的な議論は深まっていないのではないか。

 そこで、本稿では議論を深めるため、次の3つを提案したい。

① 公的年金の給付月額がX万円減っても、老後に向けた資産形成として、私的年金などを活用しながら、そのX万円分の穴埋めを可能とする投資や貯蓄を行えばよい

② もはや公的年金のみの所得代替率は意味がない。日本版「年金ダッシュボード」を活用し、公的年金や私的年金なども含む「拡張版・所得代替率」を情報提供すべき

③「拡張版・所得代替率」の目標値を定め、それが達成できるよう、税制優遇措置を拡充すべき

60歳から90歳までで
1980万円の家計貯蓄が必要

 以下、順番に説明しよう。まず①だが、そもそも、「老後2000万円足りない」という議論は何であったのか。既に忘れている人々も多いと思われるので、簡単に説明しておこう。

 まず、総務省「家計調査(2017年)」によると、無職の高齢夫婦世帯が1カ月に支出する平均は26.4万円となっている(注:労働政策研究・研修機構「ユースフル労働統計 2019」によると、男性の平均的な生涯賃金は2億円から2.7億円、女性の平均的な生涯賃金は1.5億円から2億円である。仮に生涯賃金が2億円とし、25歳から働き90歳で寿命を全う場合、その平均的な支出は月額26万円《年間308万円》である)。だが、この世帯における公的年金などの収入は平均で20.9万円しかないため、5.5万円不足して家計が赤字となっている。厳しい現実だが、これが高齢夫婦世帯の平均的な姿であり、この赤字分は60歳までに蓄えた預金の取り崩し等で賄っていると思われる。

 では、寿命が90歳と仮定した場合、このような高齢夫婦世帯の家計が破綻しないためには、どの程度の貯蓄が必要か。この計算は簡単で、60歳から90歳までの30年間において、1980万円(=5.5万円×12か月×30年)の貯蓄が必要となる。

 この1980万円が概ね2000万円なので、「老後2000万円足りない」という議論になった。テレビや新聞で一時的に大騒ぎになったのは、多くの人々が2000万円も貯蓄できないと思ったからではないか。

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