2022年10月1日(土)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2022年2月25日

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冷泉彰彦 (れいぜい・あきひこ)

作家・ジャーナリスト

ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。近著に『「反米」日本の正体』(文春新書)など。メールマガジンJMM、Newsweek日本版公式ブログ連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

 最初の頃は疑問視されたこの動きも、近年では留学生を対象としたリクルート活動、とりわけインターンシップなどの機会を日本企業が幅広く提供するようになり、成果が出てきている。期待された日本企業への国際人材供給という役割が機能するようになってきたのだ。

 当初は「第一志望の英語圏への留学」に失敗した人材ばかりが来るのではという悲観論もあったが、結果的にそうではなかった。多くの大学では欧米の統一テストの成績を判定基準に使って厳しい選考を行う中で、優秀な人材を集めることに成功している。

 鍵となったのは学費であった。年間5000ドル前後という国公立大学、私立でも1万ドル強という学費について、国内学生と留学生に差別を設けなかったことが、リーマン・ショック後の厳しい経済情勢の中で大きな魅力となった。

 加えて、世界中の若者による日本文化への憧れは加速こそすれ、衰えることはなかった。英語は通じなくてもフレンドリーな「おもてなし」の姿勢にあふれた日本社会、何よりも世界のトップレベルの治安を誇る安全な社会ということも評価を高め、優秀な人材を集めることとなったのだ。

コロナで状況は一変

 だが、この2年間の「水際対策」がこの流れを大きく壊してしまった。

 少なくとも人生の重要な4年間、日本で暮らし日本で学ぶという決意をした若者に対して、その日本が国境を閉ざしてしまったのである。現時点では、日本への留学のために入国待機状態にある学生の数は「15万人」に及ぶという。

 優秀であっても経済的に厳しいことから日本の大学を選んだ学生から、他国よりはリーズナブルだとはいえ5000ドルから1万ドルの学費を徴収しながら、オンライン授業しか提供できない現状。日本での生活を通じて人生設計を考えていた若者たちを拒絶するという状況。多くの若者が人生設計を狂わされている。それも15万人という規模である。

 日本経済という面から考えても、2年分の国際人材が調達できないことになるし、仮に留学生が戻ってきても当面は「日本社会での経験が2年少ない」まま卒業する人材は、即戦力としてはハンデを抱える可能性がある。

 1番の問題は、留学先として「日本の大学」という選択肢に大きなクエスチョンがついてしまったということだ。平時には必死になって学生集めのPRを行っていても、一旦パンデミックとなれば国境を閉鎖し、明白な国籍差別を行う国というイメージは、一旦ついてしまうと今後の学生集めを困難にするであろう。

交換留学制度にもヒビが

 問題はフルタイムの留学生受け入れだけではない。全ての日本の大学生に関係する問題も起きている。交換留学制度である。日本の大学に入学した日本人学生には、ほとんどの大学で交換留学制度が用意されている。

 つまり世界中に提携大学があり、例えば2年生(回生)から3年生にかけて半年ないし1年間、原籍は日本の大学に置いたまま世界中の大学に短期留学できるという制度だ。多くの大学はそれこそ半世紀以上をかけて信頼関係を作り上げ、これを維持してきた。その結果、交換留学制度を経験した人材というのは、20世紀の後半から現在に至る日本経済の国際化を支えてきたと言っても過言ではない。

 その交換留学制度が危機に瀕している。これも「水際対策」が原因である。交換留学制度というのは、国同士の外交と同じで相互性・対等性を前提とした「信義」によって支えられている。だが、この間の「水際対策」により、日本では交換留学生の入国もほぼストップした。具体的には、世界中の大学が厳密に選考して決定した合格者を日本に送ろうとしても入国できないのである。

 もちろん、パンデミックの期間中このような措置は、世界各国でもさまざまな形で実施された。だが、先進7カ国(G7)の中で最も厳格という日本は、この分野でも悪評にさらされている。その結果として、相互性・対等性の観点から、「日本との交換留学制度を中止」せざるを得ないという声が各地から聞こえてきている。まだまだ国際化が途上である日本にとっては、国際人材を養成することは急務であるが、そんな中で、交換留学制度が行き詰まるというのは非常に深刻である。

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