2022年11月30日(水)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2022年3月3日

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高口康太 (たかぐち・こうた)

ジャーナリスト

1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。中国・南開大学に留学後、ジャーナリストとして活躍。著書に『幸福な監視国家・中国』(共著、NHK出版)など多数。千葉大学客員准教授を兼務。

 よく知られているとおり、中国は厳格なネット検閲を実施している。当局から問題視されるような文章や動画を公開すれば、そのコンテンツが削除されるだけではなく、警察に呼び出されたり、アカウントが削除されたりというリスクも考えられる。インフルエンサーやブロガーにとっては収入を失う可能性もある。

 makiさんも2月27日に中国の世論状況を公開するユーチューブ動画を公開した。彼女自身もインフルエンサーとして活動しているだけに公開前にはためらう気持ちもゼロではなかった。

 「少し悩みましたが、間違ったことは発信していませんし、消されても仕方がないと勇気を出して、公開ボタンを押しました」

 中国のソーシャルメディアや、インターネット記事のコメント欄を見ると、確かに「プーチンかっけー」「米国の陰謀で始まった戦いだ」といったものが目立つ。

 しかし、14億人の中国人民が一環となってロシア支持、プーチン推しというわけではない。弱者が傷つく戦争に反発しつつも発言を控える人もいれば、海外のことなど何の興味もないが、なんとなく回りに流されて「米国許さん」と書き込む人もいる。自由な議論や世論調査がない以上、どういう見方が主流なのか、どの程度の人がロシア支持なのかは見えないのが実情だ。

 しかも、中国のネット検閲はウクライナ問題については激しく混乱している。「戦争はやめるべき」というコメントは削除する一方で、「ウクライナ美女を連れてこよう」という書き込みは野放しなのだから。どちらが中国の国力や信用を傷つけるものなのかは、冷静に考えればすぐにわかるのではないか。

現地での混乱にも波及

 在ウクライナ中国大使館は2月24日、ソーシャルメディアでウクライナ在住中国人に対する注意事項を発表したが、「自動車には中国国旗を貼っておくように」との項目が含まれている。

 中国で大ヒットしたプロパガンダ映画「戦狼 ウルフ・オブ・ウォー」は、内戦が起きたアフリカ某国が舞台だが、中国国旗を掲げると政府軍、反政府軍がともに攻撃しなかったというシーンがある。世界に愛される中国、中国国民を守る五星紅旗という麗しいエピソードだが、さすがに映画のワンシーンに過ぎない。ましてやロシアの友好国扱いの中国とあっては逆効果でしかない。そこにきて、「ウクライナの美女を連れてこよう」といった悪質なコメントが横行しているという情報も現地に伝わり、火に油を注いだという。

 最終的には中国大使館は中国国旗を貼れという呼びかけを撤回した。そればかりか、現地中国人には防空壕に避難した際、日本人だと偽ったものまでいたと報じられている。

 この状況をさすがにまずいと認識したのか、中国サイバースペース管理局はウクライナ問題に関する問題コメントを取り締まるよう支持した。「客観理知的な態度を保ち、理性的に議論し、清らかなサイバー空間をともに築こう」と呼びかけている。こうした特別な呼びかけがなければ、「戦争反対」が削除され、「ウクライナ美女を連れてこよう」が残るのが中国のネット検閲の現状というわけだ。

  
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