2024年7月16日(火)

#財政危機と闘います

2022年3月5日

 こうしたなか、ロシアはウクライナへの侵略を開始したわけであるが、西側諸国はウクライナへの直接的な軍事的支援は行わないまでも、バンク・オトクリティエ、ノビコムバンク、プロムスビャジバンク、バンク・ロシヤ、ソブコムバンク、開発対外経済銀行、VTBバンクの主要7行のSWIFT(国際銀行間通信協会)からの排除、ハイテク製品の輸出規制などの経済制裁を断行した。

 西欧諸国はエネルギー資源のロシア依存度が高く、ロシア国営エネルギー企業「ガスプロム」系のガスプロムバンクがSWIFT除外対象に入っていないことから効果は低いと指摘する識者も一部いる。ただ、同時に日本を含む西側諸国はロシアの中央銀行、政府系ファンド、財務省との取引を全面遮断することでロシアが海外に保有する外貨準備にアクセスできないようにした。

 このため、ウクライナ侵略開始後30%以上も暴落したルーブルの一層の下落を防ぐのが著しく困難となり、ウクライナ侵略前の2021年でも5.9%あったインフレ率のさらなる高騰が予想される。経済制裁は確実にロシア経済を追い込むはずであり、メディアで喧伝される「経済制裁など大きな影響を持たない」というロシア寄りのコメントはくれぐれも信用してはならない。

 かつて、レーニンが「資本主義を破壊する最善の方法は、通貨を堕落させることだ(The best way to destroy the capitalist system is to debauch the currency.)」と語ったとされるが、ロシア経済も通貨の堕落によって破壊されるとは、あの世のレーニンも深く嘆いているのではないか。歴史の皮肉だ。

 さらに、国際金融協会のエリナ・リバコワ副チーフエコノミストは「今後も危機が深刻化すれば、デフォルトや債務再編の可能性がある」と述べるなど、ロシア経済は危機の瀬戸際にあるのは間違いない。

ロシア制裁の世界経済への影響

 ロシアへの西側諸国による経済制裁の影響はどの程度と考えられるだろうか。ここで参考になるのは12年にSWIFTから除外され原油の輸出も事実上禁じられたイランの経験である。イランはこの措置により同年のGDPは7.4%減少し、インフレ率は31%も上昇した。

 仮にロシア経済12年当時のイラン経済と同様、一連の経済制裁によりGDPが7.4%下落すると仮定すると、世界経済は0.13%押し下げられることとなる。

 こうした直接的なロシアへの経済制裁の影響よりも、同時進行している天然ガスや原油価格の高騰が世界経済に与える影響の方がはるかに大きい。現時点では原油価格などがどの程度まで上昇するのか予想するのはきわめて困難であるが、多くの市場関係者が指摘するように22年の原油価格が14年以来1バレル=100ドルに達すると想定しよう。例えばウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)の原油価格は21年では1バレル=67.96ドルだったので、47%超の上昇となる。また、ロシアが世界産出量の多くを占めるパラジウムの取引が制限されれば、半導体生産が滞り、現在進行中の半導体不足に拍車がかかる恐れがある。

 これまでの世界経済とエネルギー価格との関係を前提として推計すると、世界経済は3.9%下落することが予想される。リーマン・ショックに際して世界経済は5%のマイナス成長に直面したので、それに匹敵する規模と言えよう。

直接よりも間接的な影響が大きい日本経済

 それでは日本経済への影響はどのように見通せるだろうか。ロシア制裁の日本経済への影響は、ロシアとの取引が制限される直接効果と、資源価格や食料価格が高騰することや、世界経済が冷え込むことで被る間接効果とに分けて考えることが出来る。

 まず、直接効果については、先にも見たとおり、ロシアとの貿易額は規模が小さい。やはり、大きいのは間接効果である。


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