2022年12月4日(日)

#財政危機と闘います

2022年3月5日

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島澤 諭 (しまさわ・まなぶ)

関東学院大学経済学部教授

富山県生まれ。1994年東京大学経済学部卒業 同年4月経済企画庁入庁。調査局内国調査第一課、総合計画局計量班、調査局国際経済第一課等を経て2001年内閣府退官。02年秋田経済法科大学経済学部専任講師、04年10月秋田大学教育文化学部准教授。15年4月から中部圏社会経済研究所研究部長を経て、22年4月より現職。

 エネルギー価格や食料価格が高騰することで、21年の家計支出構造が維持されると仮定すれば、日本の家計支出は1世帯あたり年平均で8万2776円負担が増加する。この結果、日本のマクロの消費額は4兆9250億円減少することとなる。

 さらに、世界経済の落ち込みによって日本の貿易も減少する。これまでの世界経済と日本の貿易額の関係を前提とした上で、マクロ消費の減少額とあわせると3.5%、金額にして18兆1520億円、日本のGDPは減少すると推計される。

 ロシア制裁によりロシアだけではなく、日本を含めた西側諸国はもとより世界経済全体が相応の「返り血」を浴びることになるが、自分勝手な正義を掲げて軍事力によって他国を蹂躙する独裁者の行動を容認しては、更なる過剰な要求が続くかもしれない。あるいは他の専制主義的・拡張主義的国家の同様の振る舞いを惹起してしまうかもしれない。

 日本がロシア制裁により失う18兆円は、実はコロナ対策により失った25兆円よりも小さい。権威主義的な国家が自由主義的な国家を数で上回る現在の世界において、先人達が血を流し獲得・維持してきた自由と人権を守る代償と考えて、ぶれることなく毅然と対応していくことが肝要と個人的には考えるがいかがだろうか。

ロシアのデフォルト危機に見る日本への教訓

 ロシア経済が現在陥っており、今後も続くと予想される苦境は、ロシアの軍事的侵略が原因であり、自業自得とも考えられるが、日本経済への教訓も得られる。

 まず、日本では、政府債務残高が巨額となっており、財政再建はまった無しと筆者は考えているが、日本の政府債務は自国通貨建ての内国債がほとんどであるので、財政破綻はあり得ないとしばしば反論を受ける。しかし、自国通貨建て内国債がほとんどであるロシアも現在デフォルトの危機に直面していることから、こうした主張にはまったく根拠がないことが分かる。

 次に、現代貨幣理論(MMT)派は、インフレになるまではいくらでも財政赤字によって財源調達すればよく、インフレになれば歳出を削減するか増税することで対処すればよいと主張している。ロシアの場合、軍事費を削減することは出来ないため、他の歳出を削減することになるが、そもそもインフレの直接の原因が歳出増にあるわけでもなく、軍事費以外の歳出削減は国民生活に甚大な影響を与えることが容易に予想されるし、財政赤字削減でインフレが収まるとも断定できない。ましてや、戦争遂行中に増税という不人気政策を行えるわけもない。

 結局、MMT派が主張するようには臨機応変に財政赤字歳出削減は行えず、またインフレの原因は必ずしも歳出増だけにはとどまらないため、財政赤字の削減でインフレの急伸を止めるのは政治的には困難であるという事実である。

 最後に、円はこれまで有事(世界経済への災害や紛争リスク)の際には、「安全通貨」や「逃避通貨」とされ、例えば14年のロシアのクリミア侵略時には円高が進行していた。しかし、今回の危機に際しては、円相場は安定しており、経済力の低下や財政状況の悪化などで、リスクオフ通貨としての神通力は地に落ちたのではないかと考えられる。

 世界的なインフレ基調のなか、日本経済を破壊する通貨の堕落を防ぎ、またいつ起こるかもわからない軍事的な挑戦にも機動的に対応できる体制を確保するためにも、財政健全化の実現は待ったなしである。

  
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