「寛大なしっぺ返し戦略」
正直で誠実に向き合うことで、初めは苦労しても、中長期的には結局こちらのほうが得だった、ということが多々ある。これが「信頼学」のあり方だ。実は、これをかなり綿密にシミュレーションした実験結果がある。政治学者のロバート・アクセルロッドが行った、囚人のジレンマの実験だ。
委細は省くが、結果としてこの精緻なシミュレーションにより、人生における最適な戦略とは「寛大なしっぺ返し戦略」であると導かれたのだ。
要点を述べると、要するに最適な生き方とは、まずは信頼して与えること。ただし、裏切った相手には相応のしっぺ返しをすること。しかし、必ずしっぺ返しをするのでなく、多少の確率では再度、信じて与えてみることだ。
ここで重要なのは、最適な戦略とは初めから裏切ることでなく、まずは信頼して与えること、となっていることだ。そうすれば、多くの相手から信頼が返ってきて、協力し合えるからだ(ただし返ってこない相手には手厳しくする、ということでもある)。
この辺りの詳細については、本件等について詳細に述べられた、信頼学の教科書たる『信頼はなぜ裏切られるのか』(デイヴィッド・デステノ ・著、寺町朋子 ・訳、白揚社)をぜひご覧いただきたい。
近年、ギバー・テイカー・マッチャーと人間のタイプを分類する動きもあり、そちらに繋がる話でもあるので、この記事についても参考になる。『他人に惜しみなく与えて「成功する人」と「搾取される人」はどこが違うのか』。ここで重要なポイントとしては、ギバーとは「単なるお人好し」でなく、キチンと「与えれば返ってくる相手かどうか」を見極めて与えている、ということだ。しっぺ返し戦略と同等のことでもある。
さらに、相手を信頼する傾向が高い(相手に与える傾向の強い)人については、信頼を与える試行回数の高さから経験値が豊富であり、相手が信頼に足るかどうかを見極める力が強い、ともいわれている。
この辺りは、『信頼社会から安心社会へ』(山岸俊男、中公新書)に詳しいため、ぜひ興味を持たれたらご覧いただきたい。