2024年4月20日(土)

MANGAの道は世界に通ず

2022年4月10日

アリとキリギリス

 さて、実際に筆者の周りにも、このように「焼畑農業的に仕事をしていた営業マン」は多々存在していた。特に不動産や人材といった領域で多いイメージがあり、これはパッケージ商品と違い商材が複雑なため、プレゼン力次第で売れる、売れないに大いに差がつくことと(通常のセールスマンとトップセールスマンで、100倍ほどの売上差が付く印象である)、また商品品質にも大いにピンキリがあるため、質の悪い商品を高く売り込むことで利益の実入りも大きくなる、といったことが主な要因であろう(重ね重ねであるが、顧客満足度を度外視した場合、である)

 こうした領域では、給与体系にも大きなインセンティブ構造が付いていることが多く、トップ営業マンは20代前半から物凄く稼く、という人も多い。不動産や人材商品を売り歩き、年収は優に3000万円を超える、という人物も多々見てきた。しかし不思議なことに、20代では肩で風を切っていた彼らが、「30代後半からトンと稼げなくなる」ということが多いのだ。

 これは上記の「焼畑的」な仕事スタイルから、周囲の使える人的ネットワークを消費しきってしまったことが一つの原因だ。さらにそのような体力を使う仕事スタイルに飽き飽きとして、体力の限界が見える30代後半以降は同じことが繰り返せなくなるというのもある。

 それなら、と管理職、マネージャー職へと転換しようとしても、「人を使う仕事になると信頼こそが重要になるため、信頼の獲得に慣れていないプレーヤー型の彼らは移行できない」という状況にハマるのだ。

 まさにアリとキリギリスのような話だが、中長期で成功していくためには、短絡的な焼畑ビジネスに手を染めるのでなく、短期では稼げずとも中長期を見据えて、信頼という資産を高めていく生き方をしていくことが良い。前述のように「信頼は複利で効く」。これに付随して、人脈やブランドも複利で効いていく、といえるであろう。

 このように、目先の売上・利益を追う「PL的生き方」でなく、信頼や人脈といった資産を重視する「BS的生き方」に、切り替えていってみてはどうだろうか。バーチャルなバランスシートの最大化を、個人としても常に心がけていきたいところだ。

 本作品内で、過去に焼畑的ビジネスをしていた永瀬は、後にこのように言われる。「これからは、お前は過去の負の遺産が相手になる」。BSを見ずに、「信頼の欠如という負の遺産」を積み重ねていってしまった永瀬は、最終的にこの「借金の返済」に苦労をしていくことになるのだ。結果、多くの友人も失うこととなる。

 採用面でも、同様のことがいえる。価値観が多様化し、さまざまな流動性が増した現在、優秀な人材ほど、自由に良質な職場を求められるようになっている。自分に信頼を寄せてくれて、なるべく与えてくれるような人物の元にこそ、良質な人は集まるのだ。昭和型の体育会マネジメントで統制すれば良かった時代は終わったと改めて認識し、信頼関係の相互確認を最重視していくべきであろう。

 第9巻では、永瀬はこのようにも言われる。「不動産の営業に、必要なのは運だ」。実は信頼を重視し、幅広い視野を持って人々に接していると、結果として運気が良くなっていくことがいわれているのだ。社会工学者の藤井聡氏が提唱した「認知的焦点化理論」である。

 ぜひこうした理論にも従い、信頼を積み重ねて運気を最大化していきたいものだ。なお本作品はただただ単純に、物凄く不動産業界の勉強になる内容でもある。消費者のリテラシーが上がりすぎてしまうことで、業界からクレームが来ないのか心配になるぐらいに踏み込んでくれているが、不動産購入・投資で不幸になる消費者が一人でも減るように、継続的な連載を応援していきたいところだ。

   
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