2024年7月16日(火)

MANGAの道は世界に通ず

2022年3月27日

本当に「腹落ち」するために必要なこと

 78話。それまでは自分自身でディフェンスをしていたアシトが、初めて「周りを使う」ことに成功する。この時、アシトは「あ。」と、新鮮な驚き、気づきを持ってこれを知る。

 このように、新たな視点の獲得とは、素直な心で受け入れた際(自分のものにできた際)に「新鮮な驚き」という感情を伴うのだ。そのため、そのような感情を伴わない限りは、「理屈は分かるけど受け入れられない」という状態に留まり、自分のものにはできていないのだ。いわゆる「腹落ち」の感覚が必要である。

 92話。チームメイトの橘の会話だ。「僕は弱い、不安でたまらない」「おい、それを口に出すのか?」「だってしょうがない、それが僕なんだから。だけどせめて、逃げることはしないと決めた」

 このように、自分のメンタルを客観視して、扱うことが可能になるシーンだ。まさに客体視のプロセスである。もし「弱くあってはダメだ、強くなければ!」と無理をし続ければ、主体のまま固定化された状態であり、対処のしようがない状況になる。無理なものは無理、と素直に認めることが肝要だ。

 「お前、たぶん弱くないぜ。本当に弱い奴は、自分の弱いとこなんて言葉にしねーよ。」と橘は言われる。本当の強さとは、このように自分の弱さを、客観的に素直に認識して口に出せることであり、このような「言語化」は成人発達理論において非常に重要で、本作品でもこのキーワードが至るところに出てくる。

 106話。冨樫はチームメイトの黒田たちを、「エリートくん」とバカにして連携を拒んでいた。その黒田が泥臭く、「僕の責任でチームが負けるのは死んでも嫌だ」と、ケガをしながら這いつくばる姿を見て衝撃を受ける。

 その結果、「お前はどうなんだ?」と冨樫は自省し、「こいつはもう、前を向いている。俺は、サッカーに関係ないこだわりが残ってるだけじゃないのか?」

 そのように変容して、チームメイトたちに心を開く。

 成人発達理論では、「新たな視点の獲得には、自分にそれが入ってきた時に受け入れられる、心の準備・正しいフィルターが備わっている必要がある」と述べている。頑固な自分を撥ね付けて、このような素直な心の状態を作るには、今回の冨樫のように、「大きな屈辱や挫折」のような衝撃の体験を経る必要がある。そうすれば自己否定せざるを得なくなるからだ。


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