2022年7月6日(水)

WEDGE REPORT

2022年3月28日

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 スペースXの「ファルコン9」で使用されるブースターロケットが、逆噴射をして地上に戻ることで再利用が可能となり、打ち上げコストが劇的に下がったように、民間企業の強みは、まさにこの点にある。月への輸送事業者を目指すアイスペースでも「ランダーの大きさなどにもよるので一概には言えないが、国家主導で行われてきた輸送費と比べれば、1㌔当たりの単価はかなり抑えられている」。

 NASAでもこのようなコスト競争力を持つ民間企業の参入を後押しする形で「商業月面輸送サービス・CLPS」(Commercial Lunar Payload Services)というプログラムを立ち上げ、参入企業の認定をはじめている。アイスペースは、ここにも名を連ねる1社だ。

 さらに、NASAとは月の砂である「レゴリス」を販売する商取引プログラムに参加する企業としても採択されている。

月面産業の広がり

(出所)PwCコンサルティング調べおよびispace試算
(注)「輸送」と「データ」の数値は前提が異なるため、合算値が合わないことがある
単位:ドル 写真を拡大

 このような取り組みを経てアイスペースが実現を目指すのが「Moon Valley 2040」だ。月と地球を一つのエコシステムとする経済圏を構築することで、月面で1000人が暮らし、毎年1万人が旅行客として月を訪れるというものだ。かつて「ゴールドラッシュ」によって米カリフォルニアに多くの人が押し寄せたが、月では「水」の発見がその起爆剤となることが見込まれている。

日本の大手企業も続々参入
目指すのは月にある「水」

 空調設備大手の高砂熱学工業は、アイスペースが運営するHAKUTO-Rプログラムに参加し、24年に予定している月面探査ミッション で、自社開発した水素製造装置を月に送り込む。同社は約20年前から、建設設備用途向けに水素利用の研究を進めてきた。そこで実用化したのが、水素製造装置だ。月面にこの装置を持ち込むことで、月に存在する水資源から水素と酸素を生成し、エネルギーや生命維持に利用することを狙う。

 担当する経営企画部フロンティアビジネス開発室・松風成美主任は「水素製造装置を月で利用するには低重力への対応や小型化が必要だが、この技術開発で得られたノウハウは省エネ技術として地上でも役立つ」と話す。

 このミッションでは地球から水を持ち込むが、次の段階では「サーマルマイニング」として、月での水の採取を目指す。ここでも同社が培ってきた熱利用技術が応用される。太陽光熱を使って月の砂の中に存在する水資源を昇華させて採取するというものだ。

 これらのプロジェクトは、同社フロンティアビジネスの1号案件として採択された。同社は、新たな中期経営計画の策定に際し、将来を見据えた20~30年後の新事業(フロンティアビジネス)の創出を企画していた中、 宇宙飛行士の山崎直子氏との意見交換をきっかけにプロジェクトが具体化した。山崎氏からは、「高砂熱学が持っている水素や熱利用技術は宇宙でも役立つ可能性がある」とのアドバイスをもらい、フロンティアビジネス開発の活動が本格化した。同社では「バックキャスト視点」を重視した社内公募を実施し、そこで手を上げたのが松風氏だった。

 若手の熱意でプロジェクトを立ち上げたのが、エンジニアリング大手の日揮グローバルだ。大学在学中からロケットサークルに所属するなど、宇宙への関心が高かった深浦希峰氏(現在JAXAに出向中、30歳)が、社内の新技術探索業務の中で「宇宙開発」を挙げ、月面開発に関する調査を開始した。一方で、「50年後の会社の事業を考える」という社内有志活動で「宇宙」というテーマを森創一氏(30歳)が提案した。「友人の父親がロケットエンジニアで、幼い頃から宇宙への憧れはあった」という気持ちに火が付いた。そんな様子を見て、田中秀林氏(32歳)も「宇宙は手に届かないものという意識だったが、何かできるかもしれない」と感じるようになったという。砂漠や極地でのプラント建設を行うことが日常だけに、「月面という極地でもプラント作りにチャレンジしてみたい」と2人とも口をそろえる。

 このような若手の盛り上がりを見たEPC DX(設計・調達・建設業務のデジタルトランスフォーメーション)部の宮下俊一部長代行が経営陣に働きかけ、日揮グループの長期経営ビジョン「2040年ビジョン」の策定とあいまって「月面プラントユニット」が立ち上がった。

日揮が描く月面プラントユニットの世界観 (©JGCCORPORATION)

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