ここで進めるのが「月面推薬生成プラント」だ。月面に存在する水(氷)を利用することで、液体酸素や液体水素を生成するというもの。これによって月面における各種エネルギー源にしたり、ロケットの燃料にしたりすることも可能になる。
もう一つが「高度資源循環型食料供給システム」の設計だ。人間が排出する二酸化炭素や排泄物などを再生・活用しながら食料を生産する事で、資源を循環させながら自給自足生活をする設備であり「いわば、小さな地球をつくるようなもの」(田中氏)だという。
「月の開発には、多くの技術が必要になる。われわれエンジニアリング会社は、地上でも各種技術をインテグレートすることが本業で、月面でもそうした強みを発揮できるはずだ」と、宮下部長代行は自信を見せる。
人間が月面で活動するようになれば、各種建設資材の必要性も高まる。それを月の砂から作ろうとしているのが大林組だ。アポロ計画で持ち帰られた月の砂、レゴリスを参考にして、富士山の麓にある砂などから「模擬砂」を作製して研究を進めている。技術本部未来技術創造部・渕田安浩副部長は「マイクロ波加熱という技術を使用して実験する中で、温度によって強度に違いが出る。コンクリート並みの強度が出ることも分かった」と話す。
実は大林組では1987年に「宇宙プロジェクト部」を設立し、『月面都市構想2050』という、月で使用される建物、居住空間を具体的に描いている。NASAの元研究員という肩書を持つ石川洋二・未来技術創造部担当部長は「われわれは、『未来構想』ということを大真面目にやってきた。描いた夢を現実にしていく。それが建設業だ」と話す。
実際、「東京スカイツリー」の建設と同時に出たのが 「究極のタワー」としての「宇宙エレベーター建設構想」だ。構想が実現すれば、 ロケットなどに比べて、低コストで頻繁に、人や資材を宇宙空間に運ぶことができる。
大航海時代と産業革命が
同時にやってきた
惑星地質学を専門にする大阪大学の佐伯和人准教授は「現在は、大航海時代と産業革命が同時にやってきたといってもよいほどのターニングポイント」だと指摘する。つまり、多くの人に活躍の場が開かれ、考え方や生活様式を激変させる可能性があるという点で「大航海時代」に匹敵する変革であり、「産業革命」によって鉱物資源が利用されるようになった結果、化石の発見につながり、進化論のような考え方が生まれたように、宇宙を開発することで生命や宇宙の起源を明らかにできる道が拓けるということだ。
「月には炭素がないために、地球のように鋼鉄を作ることができない。しかし、月にあるアルミやチタンなどを混ぜれば、炭素の代用はできる。月でも地球でも物理法則は不変だ。基礎知識をしっかり身に付けた上で、地球の常識にとらわれない柔軟な発想ができる人こそが、これからの月面開発、宇宙研究に求められる人材になる」
月面というニューフロンティアで新しいビジネスを起こそうというのは、まさにリスクをとった大きなチャレンジだ。宇宙ビジネスを「遠い存在」と考えるのではなく、自社や個人として何ができるのか、ぜひとも想像をふくらませてほしい。
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