聞き手・堀川晃菜(科学コミュニケーター)
構成・編集部(大城慶吾、鈴木賢太郎)
堀川晃菜(以下、──)コロナ禍で人類はウイルスの存在を日々、強く意識するようになった。コロナ禍を経てどのような心境の変化があったか。
毛利 その前に私が宇宙に行ったときのことからお話したい。最初に宇宙空間に到達し、「無重力」かつ「真空」という死の世界がすぐ隣り合わせにある中で、認識したことは二つある。一つは、体全体がふわっと浮いて、一つひとつの細胞が丸くなろうとしている感覚になり、「人間の体は細胞で成り立っている」ことを改めて実感したこと。もう一つは、「地球が確かにそこにある。しかも、大きくて、私たちを全て包み込みながら宇宙に浮かんでいる」ということだ。
今回のコロナ禍では、地球に住むほとんどすべての人間が「新型コロナウイルス」の存在を意識することになった。これは約100年前、スペイン風邪が流行した当時とは状況が異なる。科学技術が進歩し、ウイルスの存在がはっきりと分かるようになり、人間の生命が簡単に奪われることを実感したからだ。また、ウイルスは各細胞の中に入って自分を増やそうとする。異論があるかもしれないが、私は、ウイルスも「生命」の一つだと考えている。「生命のつながり」の中で生きているという意識が全世界に広がったことは人類の未来へ向けて大きな転機になると言っていい。
──今回の経験は、人類にとって、将来どのような影響を与えるか。
毛利 新型コロナの次に流行するのはウイルスよりもっと大きな微生物、細菌による感染症かもしれない。ウイルスに対し人間はワクチンで免疫を強化するが、抗生物質が効かない細菌が蔓延したとき、コロナ禍以上のことが起こり得る。新型コロナワクチンの開発には約1年の時間を要したが、抗生物質の開発には、場合によっては10年単位の時間がかかるかもしれない。
一方、ウイルスや細菌は簡単に「突然変異」を起こす。従来通りの科学技術で対抗しようとしても、実はもう何億年も生きている彼らに負けるだろう。人類は、「勝とう、絶滅させよう」とするのではなく、犠牲を最小限にしながら、彼らとうまく棲み分けし、共存していくのか、という発想に転換しなければいけない。ゲノム解析……
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