「これから重要になるのは〝群れ〟をつくることだ」。こう話すのは、「ワークロイド」と呼ばれる実用型ロボット開発企業テムザック(京都市上京区)の髙本陽一議長。ロボットが「群れ」をつくるといえば、東京五輪2020の開会式でドローンが地球を描いたことが記憶に新しい。インテル社が開発した「シューティングスター」という技術で、1台のコンピューターで1000台以上のドローンを制御して夜空に立体的な光の像をつくりだした。
ただ、髙本氏が言う「群れ」とは、中央制御型ではなく、ロボット同士がコミュニケーションをとり、さながら「群れ」のように、自律的に動くようにすること。それを実現したのが、テムザックが開発した建築施工ロボット「キャリー・ショット」という、2体の「天井石膏ボード貼り」ロボットだ。
具体的にはこう動く。「キャリー」が石膏ボードを天井に持ち上げる。そうすると、石膏ボードによって「キャリー」の視界は遮られ、正確な位置を確認することができない。そこで、代わりに「ショット」が位置情報を確認して適切な位置を「キャリー」に伝える。正確な位置に石膏ボードが置かれると、「ショット」がビス打ちをして固定する。また、施工データを読み込み、作業手順・位置をマップ化してそれぞれが自律して作業を行っているため、双方が衝突しそうになった場合、互いが現在行っている作業を確認しあい、どちらが回避するのが最適か、ロボット同士で判断して行動することができる。つまり、ロボットに搭載されたAIが、コミュニケーションをとって行動を選択しているのだ。
開発のきっかけは、パートナーとなった積水ハウスから、施工従事者不足や高齢化が喫緊の課題となっていると聞かされたからだ。「キャリー・ショット」は個人住宅での使用を想定されており、施工現場への搬入を容易にするため、小型・軽量化されたロボットにする必要もあった。「中央制御だと、すべてをプログラムする必要があり、イレギュラーな状況に対応できない。人間の代わりになるロボットは現場で判断して動くことが重要になる」と、髙本氏は強調する。そして「こうした技術は、さまざまな実用ワークロイドを開発してきたからこそ実現することができた」という。