新しい〝付加価値〟最前線

2022年1月12日

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多賀一晃 (たが・かずあき)

生活家電.com主宰

スマート家電グランプリ審査員。主催する『生活家電.com』を通じ、家電の新製品情報、使いこなし情報他を発信中。過去、某メーカーでAVメディアの商品企画を担当、オーディオ、光ディスクにも精通。また米・食味鑑定士の資格を有する。水、米、パン、珈琲、お茶の味に厳しい。

 2020年の1月16日に新型コロナウイルス感染者が国内で確認された。以降、世界中がコロナ禍に巻き込まれ大変な騒ぎとなっている。初めに不足した物資はマスク。日本では、窮余の策として政府配給のいわゆる「アベノマスク」が登場したが、その顛末が明らかになると、ビジネスを経験したことがある人からすれば、あまりにお粗末と言える。

 今回、家電メーカーが生産している「マスク」から、コロナという危機を乗り越えることとビジネスの関係を探る。

(peterschreiber.media/gettyimages)

目の付けどころが違う? シャープ

 マスクが不足した2020年初頭、日本政府はマスクを作るメーカーに新規、増産共に補助金を出すことを決定した。ただし、それは短期納入がマストだった。それを受けて立ったのが、かつての液晶テレビの雄、シャープだ。家電メーカーが製品を立ち上げる場合、「投資」もそうだが、「原材料」「生産ライン」「品質管理」「販路」が必要になる。

 例えば「販路」。マスクではないが、中国メーカーが日本でテレビを売る場合に、どれくらい時間がかかるかというと、ざっと3年と言われている。時間をかけないと販売時に必要な「信用」が得られないのだ。シャープは、2020年2月初頭からリサーチを開始、同月28日にマスク生産を行うことを決定した。そして3月半ばには出荷に漕ぎ着けた。短期も短期。短期でできた最大の理由は、液晶パネル生産のためのクリーンルームが余っていたからだと、シャープは語る。

 マスクは不織布のロールを加工機でマスクに仕立て上げる。マスク1枚分の不織布を切り出し、折るなどして形にして、超音波溶着する。耳紐を付け超音波溶着。品質チェックを行い、問題がなければ、1枚ができ上がる。

 加工機はホコリがないクリーンルーム内に設置される。このクリーンルーム、建屋自体が対応しているとベストだが、そうでない場合は、建屋の中に特別な部屋を新しく設けることになる。ホコリが侵入しないように、換気空気のフィルタリング、エアーシャワーの設置などなど、時間と手間がかかる。一般的には数カ月かかるとされる。シャープは、クリーンルームを持っていたことで、この時間が節約できたわけだ。

 しかし、それでも設備の入手、設置、立ち上げに時間がかるし、第一、シャープ自体はマスクを作ったことがなく、スペシャリストもいない。

従業員全員に自社製マスクを配ったホンハイ

 ところが、身近なところにマスク生産の例はある。親会社の台湾の鴻海(ホンハイ)グループだ。台湾のコロナ対応は徹底していた。SARS(重症急性呼吸器症候群)の時の経験が生かされたものといわれる。今回のコロナ、鴻海は従業員に、自社製マスクを配ったそうだ。配布は20年2月だというから、「流行の可能性ある」と判断した瞬間に、躊躇なく動いたのだろう。

 シャープは、品質管理については、日本衛生材料工業連合会のアドバイスをもらいながら、各種検査をした。生産開始は3 月24日。1カ月しないうちに、立ち上げたことになる。この時のコメントに、「この時可能な限り、マスクが必要とされるところへ提供できますよう、政府と調整中です」とあり、販路はECサイトで売ること以外、不明確な状態だった。

 必要な納入が終わり、一般向け販売が始まったのが、4月21日。ネットによる応募販売だ。1週間に一度、抽選で購入者を決め販売するという方法がとられ、マスクが枯渇していた時期でもあり、サーバーダウンするほどの注文が殺到した。マスク自体は平時だとやや高値、緊急時だと納得のできる価格だったが、「日本の大手家電メーカーが、品質を保証して出した「made in Japan」。人気もあり、抽選倍率は、ほぼ100倍となった。

 私も入手したが、マスクは可もなく不可もなく、それなりの出来だった。驚いたのはパッケージ。薄手の紙箱に、個装なしに50枚詰め込まれていた。「業務用」といえば聞こえがいいが、全く店頭販売が考慮されていないとしか思えなかった。その後も、シャープはECサイト以外の一般販売を行っていない。

 シャープは、ほぼ在庫ゼロでフル生産、かつ増産をかけ、600万枚/月まで持っていった。しかし、市場にマスクがいっぱい出回ったら、値崩れする。在庫も出る。だんだん利は下がる。そんな時、ECサイトに、わざわざ買いに来てくれる人が、どのくらいいるのだろうか?

 不織布という「原材料」を外から購入しているということは、その仕様は簡単には変えられないということだ。開発してもらうことも可能だが、それには信頼関係と投資、開発期間が必要となる。規模の問題も絡んでくる。不織布=フィルター=マスクの絶対性能だから、不織布をいじることができないと、マスク性能の底上げが極めてし難い。

 20年の暮れも近づくと、マスク需要もひと段落した。以降シャープは、マスクに対して二つの施作を取り、今に至っている。

 一つ目は「新しい売り方」だ。市場にマスクが出回り、いつでも、どこでもマスクが買えるようになると、当然、シャープは新しいサービスで、ユーザーを魅了しなければならない。それではじめたのが、20年12月に導入された「定期便」だ。月に一度その月の分が送られてくるわけだ。これはマスクをすることが常態化した場合にのみ成り立つわけだが、今現在、まだその状態で、ある種の顧客の囲い込み法だ。

 二つ目は「商品強化」。最初は、21年6月に発売された抗菌機能付きのマスク。次は21年9月に発表された立体型と呼ばれるタイプで鼻と口の前に大きな膨らみを持たせた「クリスタルマスク」だ。この膨らみは、折り紙のように折により作られる。メリットは鼻、口元を圧迫しないため、化粧落ちしにくいこと。折り込むと、肌に触れた内側を外に出さずに収納できることを。かなりエケットポイントが高いマスクだ。この二つのマスクに共通するポイントは、不織布の変更をせずとも、加工機改造で対応できることだ。

シャープ 通常のマスクとクリスタルマスク

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