家電口論

2021年7月31日

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多賀一晃 (たが・かずあき)

生活家電.com主宰

スマート家電グランプリ審査員。主催する『生活家電.com』を通じ、家電の新製品情報、使いこなし情報他を発信中。過去、某メーカーでAVメディアの商品企画を担当、オーディオ、光ディスクにも精通。また米・食味鑑定士の資格を有する。水、米、パン、珈琲、お茶の味に厳しい。

 最近の白物家電は、リーダーシップが大手メーカーから中小メーカーへ様変わりしているようです。一つには、白物家電の多くの技術は、すでに世に出ているものが多く、新しく開発する余地がなくなったこと。そしてもう一つ方向性がガチガチに固定されてしまっていることが挙げられます。

 例えばテレビ。日本メーカーは「デジタル化」「高解像度化」を成し遂げました。しかし、生産を中国他に持っていかれ、日本メーカーの多くはテレビ事業から撤退するハメに陥っています。それは一種の予定調和。肉眼の解像度は4Kと8Kの中間ですから、8K以上の解像度が不要と言われており、日本の得意な「開発」を大上段に振りかざすことができなくなったからです。

 また「デジタル規格」化され、その規格を満たしていると、ある性能が達成されます。また全部ではありませんが、ハードは同じでも「プログラム」で、異なる結果が出せるようになりました。技術も「ハード」的なモノから、段々「ソフト」的なモノが重視される様になり、質が変わって来ているわけです。

 技術的に飽和状態にある家電市場で、今日本で勢いがあるのは、中小の家電メーカーです。アイリスオーヤマ、シロカ、バルミューダ等々。

 今好調の中小メーカーは、どうやってものづくりをしているのでしょうか? 三代目「すばやき」が好調なシロカに取材してみました。

シロカというメーカー

 シロカは、2000年創業の国内メーカー。名前の由来は「白物家電」。白家=シロカと言うわけです。シロカは、調理家電や生活家電、季節家電といった「小型家電」の企画・開発・製造・販売を行っている企業です。このメーカーは製造設備を持ちません。製造は委託生産です。販売地域は、国内をメインに台湾や韓国といったアジア・パシフィック地域での販売も行っています。

 創業は2000年で、現在のシロカの形になったのは2007年と、まだ歴史の新しい会社ですが、シンプルでおしゃれ、かつリーズナブルな製品を消費者に届けるというコンセプトで製品開発をおこなっています。

高級オーブントースター 3代目「すばやき」

 

 シロカは現在、キッチン家電に力を入れています。元々シロカのオーブントースターは、内容も充実していた上に安い。当時、本格的なピザプレートが付いて、1万円を切っていました。ノンフライヤーの様に、唐揚げ的な焼き鳥も見事なモノ。私も何度となく、舌鼓を打たしてもらいました。高さもあり庫内が広く、いろいろな料理を作ることができました。品質もよく、「買うならこれ!」と言うレベルのモノでした。

 しかし、その後、バルミューダがオーブントースターの傑作機を出しました。「高級オーブントースター」と言うカテゴリーを作り出した『BALMUDA THE TOASTER』です。オーブン内に5ccの水を入れ、中で蒸発させることにより、パンの中の水分を外に出さずに焼き上げると言う考え方のトースターです。

 これに対して、水分がパンの外に飛び出す前に焼いてしまえば、と作られたのが、シロカの「すばやき」です。スィッチON後、すぐヒーターがオレンジに光ります。白いボディにオレンジ色がはえて、実にキレイです。パンの焼き上がりもいいです。やり方は違いますが、双方とも、パンを美味しく食べるために作られています。3つのダイヤルでコントロールする、アナログ操作は、それまでのシロカの使い方を継続しています。

 一代目は「味」追求したモデルでしたが、二代目は「使い勝手」と「メニュー」を追求したモデルでした。表示パネル、2つのダイヤル、6つある操作ボタンを左から右へセットして行くと、メニューが設定され調理できる様になっています。しかし、理論的とはいえ、ボタン数が多く、ちょっと面倒くさい。スマートホンのタッチパネルでもわかるように、シンプル&直感的な操作、シンプルなデザインが今ドキです。その意味では、ちょっと古かったかもしれません。

 三代目は「アナデジ」ともいうべきモデル。表示パネルとダイヤル1つ、ボタン1つでコントロールします。一代目と二代目のいいとこ取りとも言えますが、サイドにあったスリットもなくなり、どこにでもおけるように設計されています。使ってみると実に良いできです。

 聞いてみると、商品開発の体勢を今までと変更、チーム制にして開発した1号機だそうです。どの様な体制にしたのでしょうか?

コンセプトを決める時のポイント

 商品企画で最も大切なのはコンセプトです。そのモデルの存在理由と言っても良いです。他社も持っているから自社も持ちたいなどと言う曖昧な理由だと、ろくなモノはできません。より良いモノにするには、緻密なコンセプトが必要です。

 コンセプトの材料は、マーケティングデーターなども必要ですが、一番は、開発者のこんなモノが欲しいという「思い」です。このためコンセプトを決める時、中心にいるのは、オーブンに詳しい人です。また素人、オーブンは構造などもあまり知らないけど、料理をしている様な人も必要です。というのは、考えを叩くためです。デザイナーも必要です。商品は、「デザイン」「技術」「価格」が融合したモノです。デザインは見た瞬間、これはこんなことができるんだろうなという機能のビジュアピール、生活空間への溶け込みなどを入れた上に、ブランドの個性を追加します。

 ちなみに画家は、自分の内面を絵に入れ込みますが、工業デザインは、緻密な理論の積み重ね。ビスの位置一つでも、ここでなければならない明確な理由を踏まえデザインします。ちなみに「デザイン」は元々「設計」の意味もあります。イラストレーターのように自分がこう思うから、ということができません。中の構造熟知した上でデザインします。超複雑なパズルをこなしているようなモノです。その上、ガラス、金属、樹脂、特性はバラバラ、技術屋と相談しながらも、自分が納得できるデザインまで仕上げます。

 当然、商品販売の最終責任を取る営業の意見も必要です。営業は市場というより他社の製品の客観的評価に詳しいです。

 また製造担当も必要です。海外生産の場合、モデルの限度見本を作成、委託することが重要です。コンセプトが分かっている場合、品質の勘どころがわかります。また、ラインでのコストダウン(生産技術の永遠の仕事ですね)も、どこをいじって良いのか、どこをいじってはダメなのかも見えてきます。商品の重要な要素、「価格」には重要なことです。

 加えて、シロカは、このコンセプトチームに、社長も参加してもらいました。自社が発売している商品を把握していない社長がいますが、製品を買ってもらって対価をもらうメーカーの頭としては、ありえない話です。コンセプト決定時に、参加すると言うことは、自社の商品への理解が深まりますし、価格も含めて商品の基本が共有化されるのですから、そこで意見も言えます。上の方が承認しているとなると、下の方もどんどん進めていけます。

 シロカはこのコンセプトを社長を入れて8人で決めたそうです。このコンセプト決めのポイントは、商品チーム全体が一枚岩になることと、そしてコンセプトをなるべく短時間で決めることです。それは実作業、生産の時間をきちんと確保するためです。上流で1日遅れると、生産時は1週間位の遅れとなります。

 似た進め方をしているのにアイリスオーヤマがあります。こちらは企画時に価格を社長が決めます。価格を決められるとできることが決まってきます。

また、バルミューダの取締役の寺田さんは、チーフデザイナーも兼任。いま好調なメーカーは、商品の技術、デザイン、価格を風通し良く回していく様に考えています。製販一体とはよく言われる言葉ですが、その肝になるのがコンセプト。これを時代に合わせ、ニーズに合わせ、共有化するのが、良い商品を作る上で欠かせません。

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