話者/櫻田謙悟×土居丈朗
聞き手・構成/編集部(濱崎陽平)
――編集部(以下、―――)新型コロナウイルス感染対策での緊急的な財政出動も相俟って、日本の財政状況は悪化の一途を辿っている。今、国や経済界に求められる役割は何か。
櫻田 財政健全化の議論において重要となるのは、日本経済の成長だ。そして、「成長なくして分配なし」。成長と分配、持続可能性は一体的に考えるべき問題だ。分配の原資を生み、成長をもたらすのは企業の役割である。将来の日本経済の命運を握るのは、企業だ。したがって今、必要なのは、企業の成長戦略だと考えている。
土居 新型コロナウイルス感染症対策として、政府はこれまでさまざまな巨額の財政出動を行ってきた。今後重要なことは2点ある。1点目は、「この先この程度までは支援する」ということを予め決め、政府が意思表示をすることだ。それがなく、漫然と支援を続けていけば、国民は「困ったら国が助けてくれる」「また(給付金などを)もらえる」という自律を妨げる思考になる。徐々に経済が回復し、景気が上向こうとしているのに、いつまでたっても財政支援から抜け出せない状況は看過できない。
2点目は、足元の原材料価格高騰など、苦しい状況に直面しているが、これを機に日本企業は値上げをしてでも利益を確保するという「価格転嫁力」をつけ、経営体質を強化し、雇用の確保はもちろんのこと、従業員の賃金を上げる決断をし、実行することだ。国民は消費増税や価格上昇に敏感で、例えば国家財政のために必要だとしても、消費増税を何かと〝悪者〟にしたがる。だが、消費税率を上げると企業の利益が減るという問題は、日本企業の「価格転嫁力」が弱いからだ。
前回の増税による経済への打撃の教訓は、まさにこの点にあるといっても過言ではない。
櫻田 その通りだ。増税と経済の話は、「鶏が先か、卵が先か」の議論が多すぎる。「消費増税のせいで消費が落ち、家計の収入は減り、経済も成長できない」という声があるが、そもそも企業が魅力ある商品・サービスを生み出せば、世の中から評価され必ず売れ、そして利益を生み出す。それは結果的に国家の税収増にもつながる。日本は、どちらが先だったら良いのかという議論に時間をかけ過ぎてきたが、もういい加減、堂々巡りの議論から脱却すべきだ。不幸中の幸いかもしれないが、新型コロナはその議論を強制的に止めた契機にもなったといえる。この30年間、問題を先送りしてきたことにようやく気づいた。