Wedge REPORT

2022年3月20日

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(1971yes/gettyimages)

 人類が再び「月」に降り立つ日に向けてカウントダウンがはじまった。月面着陸を目指す「アルテミス計画」における、ミッション1で使用される「打上げロケットSLS(スペース・ローンチ・システム)」が来月にも打ち上げられる。

 しかし、「50年以上も前のアポロ計画があるのではないか?」「どうして今さら?」と不思議に思う読者も少なくないだろう。そこで『月はすごい 資源・開発・移住』(中公新書)、『世界はなぜ月をめざすのか 月面に立つための知識と戦略』(ブルーバックス)などの著作がある大阪大学の佐伯和人准教授(専門は惑星地質学)に「人類はなぜ「月」に行かなければならないのか?」を聞いた。

 佐伯教授は『月はすごい』の中で、現在は「大航海時代と産業革命が同時にやってきたような状況にある」と記している。いったいどういうことだろうか?

「まず、多くの人に活躍の場が開かれ、考え方や生活様式を激変させる可能性があるという点で『大航海時代』に匹敵する変革期にあるということです。次に『産業革命』については、鉱物資源が利用されるようになった結果、化石の発見につながり、『進化論』のような考え方が生まれたように、宇宙を開発することで生命や宇宙の起源を明らかにできる道が拓けるということです」

 それにしても、50年も前に人類は月に行っているわけだから、もっと早く月に基地ができていたり、月への観光旅行に普通に行ったりするようになっていてもよかったのではないか? と思ってしまうが、なぜこれほど遅れてしまったのだろうか。

「私もそう思います(笑)。子どもの頃にアポロの月面着陸を目の当たりにして、大人になるころには、当然月面基地も完成しているだろうと思っていました。ただ、実際は当時の月面着陸は、『冷戦』の産物だったわけで、技術的にも資金的にも無理をしていたという部分がありました。現在は、技術が進化したことと同時に、それらが以前と比べて格段に低コストで利用できるようになりました。こうしたなかで、ビジネスチャンスがあると考えて参入する企業も増えています。こうした状況は大歓迎ですが、研究者としては、ビジネスにはならなくても、未知の分野を研究する必要があることは押さえておきたいと思います」

 実際、ここにきてスペースXを率いるイーロン・マスク氏や、ブルーオリジン氏を率いるジェフ・ベゾスなど、著名な企業家の宇宙事業も本格化している。そして、エンターテインメントの分野でも、『スターウォーズ』の新シリーズなど宇宙に関する作品が数多く出されている。

 目新しさという点では、劉慈欣氏によるSF小説『三体』(早川書房)シリーズだ。日本でもベストセラーとなった。マスク氏やベゾス氏も愛読書としてSF小説をあげているように、その国の宇宙開発のレベルと、このような宇宙エンターテインメントの盛り上がりは連動しているように見える。

「『三体』については、中国の人々の宇宙科学に対する、並々ならぬ情熱を感じました。月の探査についても最初はつたないところがありましたが、あっという間に日本を追い抜いて、サンプルリターンを成功させました。日本では、私の前の世代では『宇宙戦艦ヤマト』、私の世代では『機動戦士ガンダム』が圧倒的な人気を誇り、これらの影響を受けて宇宙関連の仕事に就いた人も少なくありません。その後、少し冬の時代がありましたが、『宇宙兄弟』によって再び宇宙熱に火が付いたと思います」

 ここで『月はすごい』から、月の特徴を列記しておく。

・ 月は「アフリカ大陸」と「オーストラリア大陸」を合わせたほどの大きさ
・ 昼と夜が2週間続き、日なたはプラス120℃、日陰はマイナス80℃になる
・ 月も自転し、地球の周りを公転しているが、地球から見えるのは表側だけ
・ 月の明るい部分は主に「斜長岩(アルミなどを含む)」。暗い部分は「玄武岩(鉄などを含む)」
・ 隕石が大気に抵抗されることなく落ちてくるほか、太陽風などの放射線が降り注ぐ
・ 溶岩チューブらしき洞窟が発見されており、人類が居住する際、放射線を防いでくれるポイントになる
・ 「ヘリウム3」という「核融合」の原料になる資源がある
・ 月の極には「永久影」と呼ばれる、太陽光がずっと当たらない場所があり、ここに水(氷)がある可能性が高い

 現在、もっとも注目されているのは、この「水」を月で発見することだ。「水など地球にはいくらでもある」と思ってしまうが、月に物を運ぶには「1㌔グラム=1億円」と言われるほどのコストがかかるとされる。月に水があれば、この費用が浮くことはもちろん、電気分解することで、「酸素」や「水素」を取り出すことができる。これらは、月で人類が生活するための資源として利用できるほか、火星など別の惑星に行く際の燃料にもなる。月には大気がないので、ロケットなどの打ち上げは、地球上よりも容易という利点もある。

 一方で、夜が2週間も続くということで、太陽光や水素だけではないエネルギー源の開発も必要になる。それが、原子力プラントだ。惑星探査機に使用される「原子力電池」や「原子力発電プラント」だ。こうした既存技術をどのように活用するのかということも課題になる。

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