構成・編集部(大城慶吾、木寅雄斗)
撮影・さとうわたる
雑談の動画は東大TVのYouTubeチャンネルからご覧いただけます。
(パート1、パート2、パート3)
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瀧口 これから「天才たちの雑談」を始めます。昨今のコロナ禍により、オンラインで会話する機会が増えた一方で、このようにリアルで集まって雑談をする機会が減りました。はじめに、雑談の効用について考えてみたいと思います。暦本先生は「アイデアは、ブレインストーミング(ブレスト)よりも、目的のない雑談から生まれる」ということをおっしゃっていますね。
暦本 「アイデアを出そう」と、壁に付箋を貼ってブレストをしたところで、良いアイデアが出るとは限りません。むしろ会議後の雑談でアイデアが生まれたりすることが多い。その点では、「Zооm」などのオンライン会議はアジェンダ(課題)がある会議はできますが、雑談するのが難しい。その場の雰囲気や温度感も踏まえて、〝ふわっ〟とした話ができるところに人間のすごさがあると思います。「ブレスト無駄説」を企業の人に伝えると、がっかりされることが多いですが(笑)。
松尾 われわれ研究者は考えることが仕事だから、何かを見たときに「何でこうなっているのかな」「違う方法はないのかな」と疑問を持ちます。ただ、企業にはそうではない人も多い。「デジタルトランスフォーメーション(DX)を導入しよう」「AIを導入しよう」といった潮流をそのまま鵜呑みにするのではなく、疑問を持つ「仮説思考」を癖付けた方がいいと思います。
合田 ブレストは、ブレストできる人がしないと意味がありません。米国では、物事を深く考え、方向性を見出してトライアンドエラーしながらもチームを率いることのできる「コマンダー(指揮官)」を生み出す教育を行っています。コマンダーはリーダーシップ教育を受けたエリート層で、コマンダーに従う「ソルジャー(兵士)」は、移民で補っている。その構図がうまく機能すると、チームが、また社会が前に進んでいく。
一方、日本の教育は、東京大学含め全てソルジャー教育になっているのではないでしょうか。サッカーでは、天才プレイヤーばかり集めてもチームとしては機能しません。天才は少数で、彼らをサポートする多くの人間がいて、初めて組織として機能するのです。
瀧口 日本でもコマンダー教育が必要ということでしょうか。
合田 そうなのですが、難しい面もあります。日本の場合、誰がコマンダーで誰がソルジャーで、というのを国が決めるのは難しく、どうしてもソルジャー教育になってしまう。ただ、DXによりソルジャーの需要が減ってきていることに呼応して、日本の教育もコマンダー型に変化しつつあります。今は過渡期の状態です。
加藤 まとめるとやはり「勉強した方がいい」ということですね(笑)。
脳にデバイスを埋め込む時代の
インターネットの姿とは
瀧口 暦本先生は、「人間拡張」の研究をされていますが、これはどのようなものなのでしょうか。
暦本 テクノロジーやAIを利用して、人間の能力をいかに拡張するかということです。拡張方法は、外付けの機械という形になるかもしれないし、最終的には脳に埋め込まれるのかもしれない。そうやって「能力をダウンロードできる」時代、人間とAIが融合する時代が来るのではないかと思っています。
ノイズキャンセリングイヤホンはその第一歩と言えます。周囲の雑音を打ち消すことができますが、「特定の声は聞こえない」「怒られているときは優しい声に変換される」といったことが実現できれば、聴覚の拡張になりますね。
映画『マトリックス』では、登場人物の一人が「ヘリコプターは操縦できるか」と聞かれ「まだ(not yet)」と答える象徴的なシーンがあります。その登場人物は、携帯電話を通じ操縦方法をインストールし、ヘリを飛ばしました。究極的にはこのように、アプリのように能力をインストールできるようになり、能力に対する考え方は大きく変わるかもしれません。
松尾 とはいえ、人間の脳が学習する構造を考えると、いきなりインストールするのではなく、学習を積み重ねていくやり方しかできない気もします。
暦本 その通りです。すぐにヘリを操縦できるようになるというよりも、従来よりもはるかに効率的に学習することができる環境をインストールできる、というのがまず現実的でしょうね。
合田 ヘリそのものを知らないとヘリは操縦できません。能力にもダウンロードできるものと、できないものがあるのではないかと思います。
暦本 人間の脳がインターネットを通じてつながったとき、全体のネットワークや知性がどのように変化するのか、まだはっきりと想像することは難しいと言えます。
加藤 ただ、人間の脳がインターネットにつながって、他人の能力を借りられるようになると、さまざまな可能性が広がると思いますね。
合田 映画『スター・トレック』に、ボーグという機械生命体が登場します。劇中では何億体というボーグがネットワークでつながっていて、最適な解を導き出すのです。その小さな規模のものが実現するのかもしれません。
暦本 アリやハチはある意味、そうした種全体が生命体となっていると言えますね。