2022年12月5日(月)

天才たちの雑談

2022年3月4日

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SFは新たなイメージを提示し
その国の潜在的な力をも示す

瀧口 テスラは2021年8月に人型ロボットの開発も発表しましたね。

テスラが2021年に公表した開発中のロボット「Tesla bot」は、二足歩行の人型だった。日本のSFの影響もあ るかもしれない(TESLA)

加藤 ああいったヒューマノイドは、元々は日本の得意分野でした。しかし世界から「ロボットは車輪や自動車でいいではないか」と言われ、ヒューマノイドへの熱が下がってきた頃に、今度はテスラからヒューマノイドが出てきた。日本はヒューマノイドに関する蓄積があるので、今後は面白いことになるかもしれません。

合田 マスク氏はツイッターでも公言していますが、『新世紀エヴァンゲリオン』や『千と千尋の神隠し』、『君の名は。』など、日本のアニメが大好きですよね。『鉄腕アトム』といったSFの影響を受けているのではないかとも思います。

瀧口 暦本先生はSFが昔からお好きと伺いましたが、研究者としてのルーツもSFにあるのでしょうか。

暦本 私の世代は『鉄腕アトム』と『サイボーグ009』です。作者の手塚治虫や石ノ森章太郎が作ったこれらの世界は、まさにストレートど真ん中の世界です。そういったものに魅了されるというのは、理系の人なら一度は辿るプロセスではないかと思います。

合田 私も『スター・トレック』や『スター・ウォーズ』といったSF映画からアイデアを借りることがあります。科学者は現在地からの延長で物事を考える癖があるので、そこを飛び越えたSFは「こういった技術があると、こんな世界になるんだ」というイメージを浮かび上がらせてくれます。

 私は米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の非常勤教授も兼任しているのですが、UCLAの教授がハリウッド映画、特にSF映画のアドバイザーを引き受けて、科学に基づいているかどうかをチェックしたりしています。クリストファー・ノーラン監督の映画『インターステラー』は、ノーベル物理学賞を受賞したカリフォルニア工科大学名誉教授のキップ・ソーン氏が監修しました。映画を通じて一般の研究者にトップの研究者の世界が伝わる、良いエコシステムができあがっていると思います。

『インターステラー』には最高レベルの宇宙物理学が反映 された(EVERETT COLLECTION/AFLO)

松尾 最近、中国から劉慈欣氏の『三体』というSF小説が出て日本でも翻訳版が出版されました。科学者を志す若い人に影響を与えるSFの力は、潜在的な国力だと私は思っています。

暦本 日本では高度経済成長期と、『日本沈没』などで知られる作家・小松左京氏が活躍していた時代とが重なります。国が盛んになるときにはSFも盛んになる。今、中国で優れたSF作家が続出している状況にもつながります。科学技術だけでなく作家も生まれるというのは、底知れない力だと思います。

 SFの中では人間の欲望が何度も試されています。欲望の充足は課題解決でもあります。たとえば不老長寿のような欲望の極限と、現実的な科学技術の接点がSFなのかもしれません。

合田 私たち科学者はSF映画と現実の科学の違いが分かるのですが、政治家の中には分かっていない人がいたりします。そこが危ういですよね。たとえば映画『アイ,ロボット』の影響で、人工知能をあまりにも敵視していたりします。

加藤 「AIが反乱を起こすのではないか」ということですよね。

松尾 人工知能脅威論が出たときに、私が「みんな映画の観すぎでは」と言ったら、炎上とはいかないまでもすごい話題になってしまいました(笑)。

根拠乏しきまま進む
人間のためだけの温暖化対策

瀧口 昨今の地球温暖化の議論については、どのように考えていますか?

加藤 コンピューターの電力消費量は凄まじいので、それ自体がもっと省エネになることが、今後にとって大事なことだと思います。電力対性能比を上げて計算時間が短くなれば、電力消費も減りますよね。

合田 その通りです。ただ、それ以前に、私は「そもそも温暖化問題があるのか、あるのならばその原因は何なのか」という科学的議論が十分にされていないのではと感じています。

加藤 温暖化はデータ上、確実に進んでいるのではないのですか?

合田 それもさまざまな意見がありますが、科学的な議論をすっ飛ばしたまま、COP26(国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議)では、EVはエコカーである、といった認識で議論がなされている。科学者の立場からすると「それって本当なの?」と疑問を抱かざるを得ません。

松尾 直近の気温上昇は顕著ですが、地球環境はずっと変動し、温暖化と寒冷化を繰り返していますからね。

加藤 EVも「きっと環境問題に役に立つであろう」という認識の下で開発が進んでいますが、EVを製造するにも膨大な電力を使いますしね。本当に環境にとってプラスかは分からない。

暦本 合田先生のご指摘の通り、はっきりとしたことが分からないまま、行動や社会規範がどんどん決まっていっています。18年の日本の温室効果ガス排出量は世界全体ではわずか2.7%で、日本だけががんばっても限界があります。日本の中で、温暖化対策に貢献しているかどうかで「良い人」「悪い人」と決めつけて、無用ないさかいを生むべきではないでしょう。

 たとえば、紙ストローがまさにそうです。正しいけどつらい、しかもそれが正しいかどうかも分からない、という世界は嫌ですね。むしろ、発想を変えて、ポリ袋を再利用するのは美学の範疇と考えたほうがすっきりする。もったいないし、捨てることが美しいと思えないから回収する、などと前向きに考えた方が幸せなのではないでしょうか。

松尾 ただ、既に世界では温暖化対策がアジェンダセッティングされているので、そういう議論は非常にやりずらいですね。

加藤 正しい仮説の下でやりましょう、ということですね。

松尾 AIやDXで効率的になれば、それだけでプラスにはなります。

合田 さまざまな議論がありますが、私が問題提起したいのは、「誰にとっての環境問題なのか」ということです。たとえばゴキブリは3億年の間、全く姿を変えていません。恐竜時代や隕石落下後も生き抜いているわけで、彼らからすると今の環境変化なんか大した問題ではないということでしょう。その意味で、現在の環境問題は人間にとっての環境問題ということになります。先ほどの「能力拡張」で考えれば、人間が環境変化に適応していけば、問題はなくなるとも言えます。

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