聞き手・土方細秩子
──そもそもSFプロトタイピングとはどのようなものなのか。
SF(空想科学小説)というと荒唐無稽な物語、と感じる人もいるかもしれない。しかし多くのSF作家はテクノロジー、科学、遺伝子工学、医学、ロケット工学などの知識を持ち、それをベースとして考えうる未来を創造している。
例えば私が最も影響を受けた一人は、日本の森政弘氏(東京工業大学名誉教授、ロボット工学専門。「不気味の谷」〈ロボットの外見を人に近づけると、人の好感度は上がるが、ある点でそれは違和感に変わり、さらにブラッシュアップをすることで好感度が再び上がるというもの〉という概念の提唱者で、仏教徒でもあり仏教とロボットに関する考察など、多くの著書がある)だ。テクノロジーと人間の関係を考える上で、多くの興味深い考察を発表している。
SFプロトタイピングとは、企業が持つ、そして近い将来、実現可能なテクノロジーを作家らと共有し、それに基づいた物語を作ってもらう、ということだ。彼らの想像力により、近い将来に実現可能なテクノロジーが社会の中でどのような役割を果たし、人間の暮らしにどのような影響を与えるのか、などを実証していくのが目的だ。
もちろん、企業としてはポジティブな未来に焦点を当てているが、ネガティブな側面もこうした作業によってあぶり出されることもある。つまり、SFプロトタイピングというのはアイデアを基に、それを言語化してディスカッションにつなげる、というものだ。
職業としての
フューチャリスト
──あなたはインテル社でフューチャリストを務めた。フューチャリストとはどのような職業なのか。
フューチャリストというのは未来を予見するのではなく、現在の技術の10年後の姿を予測し、それをポジティブとネガティブの両方の見方からモデル化する、というのが主な仕事だ。可能性のあるさまざまな要因をモデル化し、過去や現在とすり合わせ、今から取るべきステップはどのようなものかを割り出す。
そのためには明日、あるいは5年後、と細かく未来を予測しながら、将来実現されるテクノロジーが社会にもたらすネガティブな影響を最小化し、ポジティブな面を最大化していくことが大切になる。
──米国では現在多くの企業がフューチャリストを採用しているが、その理由は?
21世紀に入り、多くの企業がフューチャリストを採用するようになった。私の元で学んだ多くの学生もフューチャリストとして活躍している。なぜフューチャリストという職業が重要と考えられるようになったのか。いくつかの理由がある。
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