2024年4月27日(土)

天才たちの雑談

2022年3月4日

Zoomのライブ授業が
最も中途半端

暦本 コロナ禍を経て、オンライン化が一気に進みました。Zoomなどのオンライン会議ならば、間に入っているのはコンピューターなので、翻訳や字幕機能のソフトをダウンロードすれば、生身の人間そのものに能力を与えるよりも、ずっと簡単に能力拡張ができます。オンライン前提ならば、能力インストールという話は極めて現実的な話です。

瀧口 最近、メタ(旧フェイスブック)による仮想世界「メタバース」が話題ですね。

加藤 メタバースは結局、仮想の現実を作っているというよりは、〝現実の世界はここまで仮想化できる〟ということを示しているように思います。

合田 ヘッドマウントディスプレイ(HMD)のようなデバイスで能力を追加すれば、たとえば障害を持った方々が、メタバースのようなテクノロジーによって世の中で健常者と同じように活躍できるようになるかもしれません。

加藤 実際、オリンピック選手の記録をパラリンピック選手が超えた例も既に存在します。十数年後には、多くの人々が一定の能力は必ず得られるようになって、障害を持った方々の中からも、より一層、活躍する人が現れるかもしれません。

暦本 自分の能力の「ここを使う」「ここは使わない」というのを選べたり、自分の外見を切り替えたりできるようになるでしょう。ユーチューブで、生身ではなくアバターとして講義ビデオをアップしている人がいて、しかも教え方がとてもうまい。コンテンツが面白ければ生身である必要はないと言えます。

加藤 コロナ禍でオンライン授業に慣れた学生が、もはや1倍速で授業を聞かないという話もありますね。

暦本 「現実も1.5倍速ぐらいにしたいのですが」と言われてしまいました(笑)。「いったん止めたい」や「ちょっともう1回」などがユーチューブではできるのに、現実の授業ではできないことに、みんなが気づき始めたのです。また、座ったままのZoom授業だと心拍数が上がらず、テンションの低さが学生に伝わってしまいます。体を動かしながら授業をするというのは、案外バカになりません。

合田 対面授業の本質は、教師と学生の間の相互作用によって、むしろ教える側が喜びを感じる機会なのではないかと思っています。質問がなくとも、学生の顔が見えれば、表情から理解度や面白いと感じているかどうかが伝わってきます。それを踏まえて、話のスピードや、どこを強調するのかを調整できます。

加藤 リアルにはリアルの意味があります。その意味では、Zoomでやるライブ授業が、一番中途半端ではないかと思いますね。

イーロン・マスクは
直球ど真ん中を投げる

瀧口 皆さんは、米テスラの最高経営責任者(CEO)、イーロン・マスク氏については、どのように見ていますか?

合田 彼はビジネスがうまいですよね。物理学を学んでおり、技術に対する理解も深いと思います。

加藤 会社が赤字でも前に進んでいくのですよね。すぐにモノにはならなくても、あの手この手で技術開発は進めていく。

合田 赤字であることに投資家が文句を言わないのです。日本だとすぐに黒字が要求されますが、シリコンバレーは赤字を許容するエコシステムになっています。

松尾 マスク氏は20年ぐらい先を見抜いていて、それを信じてやっている。「いずれ世界が後からついてくる」とばかりに突き進んでいます。ビジョンがすごい。

暦本 やっていることが全部、〝直球でストライク〟なのです。直球を通すために必要なものを逆算できるビジョンと、それを揃えられる財力がある。科学者は「みんなが直球で苦労しているからカーブで投げました」と変化球を投げたがる傾向がありますが、彼はあくまでも直球ど真ん中のストライクを通しています。

 スペースXもそうです。「ロケットは(打ち上げた場所に)戻ってくるべきだ」というように、言っていることはすごくシンプル。ただし、それを実現することは並大抵のことではありません。しかし彼の場合はどれだけコストがかかろうとも真ん中を射抜く。そこがすごい。

加藤 たとえばグーグルは、最初に検索エンジンを世の中に出した際に、今日のこの世界を思い描いていたのでしょうか。

暦本 広告と結びつくまではグーグルは全く儲かっていなかったので、最初から全てを見通していたとは思えません。むしろ、グーグルを作った2人の学生(ラリー・ペイジ氏とセルゲイ・ブリン氏)が、ビジネス以前にまず「全世界の情報はインデックスされるべきだ」というビジョンを抱いたというのは、すごいことでしょう。

加藤 マスク氏が1998年にペイパル(現在は米決済大手)を設立した際、電気自動車(EV)や宇宙開発のことまで考えていたのか、気になるところです。


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