アポロ11号が月面に着陸してから53年。再び人類が月面を踏むカウントダウンが始まった。2019年3月、米国航空宇宙局(NASA)がアポロ計画以来となる宇宙飛行士を月面に送る「アルテミス計画」を発表、日本も同年10月に参画することが決まった。今回は月に人が滞在し、火星などのより遠くの宇宙に行くために拠点を整備することが目的となる。
計画では、3つのステップを踏んで月面着陸に挑む。その「アルテミスⅠ」が、今年4月にもスタートする。アポロ計画で使用されたサターンロケットを超えて過去最大となるスペース・ローンチ・システム(=打ち上げロケット、SLS)の打ち上げだ。これに搭載されるのが4人乗り有人宇宙船「オライオン」で、アルテミスⅠでは、無人のオライオンが月を周回して、約3週間で再び地球に戻ってくる。
このSLSには、人工衛星が10基搭載され、そのうち2基は日本のものだ。一つは超小型探査機「オモテナシ」で、月面着陸の実証実験、月までの軌道における放射線計測を行う。もう一つは「エクレウス」。月と地球の重力が均衡する「ラグランジュ点」への効率的な航行の実証と科学観測を行う。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)国際宇宙探査センター事業推進室の永井直樹室長は「はやぶさが着陸したイトカワのような小天体は重力が極めて弱い。しかし、月には地球の6分の1とはいえ重力があるため、着陸の制御がより難しくなる。また、ISS(国際宇宙ステーション)でも、地球の重力に引っ張られて軌道が下がるため定期的にロケット噴射で上昇させる必要があるが、ラグランジュ点では軌道を維持することができる」と話す。
これに続いて「アルテミスⅡ」ではオライオンに宇宙飛行士が搭乗して月を周回し、25年に予定されている「アルテミスⅢ」では月面に着陸する。なお、月面を踏む宇宙飛行士には女性を含むことが決定されている。
月面着陸には、ヒューマン・ランディング・システム(=有人月離着陸船、HLS)が使用される。HLSの開発製造は、イーロン・マスク氏率いるスペースXが受注したが、ここでひと悶着あった。アマゾンのジェフ・ベゾス氏が率いるブルーオリジンが、この決定を不服として提訴した。結局、この申し立ては却下されたが、アルテミス計画に遅れが生じた。ただし、この決定を受けてベゾス氏もツイッターで「NASAとスペースXの成功を願う」とエールを送っている。米国を代表する2人の企業人がまさに本気で宇宙事業に取り組んでいるのだ。
アルテミス計画と同時進行で行われるのが「月ゲートウェイ」だ。現在、地球の軌道上を回るISSの小型版ともいえる「ゲートウェイ」を月の軌道上に建設する。これが始まるのが24年だ。ゲートウェイが完成すれば、地球からゲートウェイまでは宇宙船オライオンで行き、そこで有人月離着陸船(HLS)に乗り換えて月面の離着陸を繰り返すといったことが可能になる。
月面輸送の基本設計
ゲートウェイの建設には日本も参画することになり、居住モジュールの建設、物資補給などを担う。長年エンジニアとしてISSの運用に携わってきた経験を持つ永井室長は「居住モジュールのような基幹部分を欧州と共同で日本が担うことができるということは非常に感慨深い」と話す。ISS運用当初は、このような基幹システムが日本に任せられることはなかったという。それが20年に及ぶ技術的蓄積を経て、大役を任せられるまでになったというわけだ。