今の日本的雇用システムが出来上がった1980年代までは、安定した高成長を遂げるマクロ経済の下、欧米にキャッチアップすることが大きな目標であった。こうしたマクロ環境が長期雇用と後払い型賃金といった日本的雇用システムの特徴と補完的であったことはいうまでもない。産業レベルでも市場の拡大が当然のように想定され、企業にとっても何をすればよいかということが明らかな時代であったし、他社と同じ戦略を取ることが大きくなる市場のパイを安定的に分け合ううえでも重要であった。
また、新卒一括採用を前提に、正社員は職務・勤務地・労働時間が限定されず、企業のさまざまな部門で経験を積むという日本固有の「メンバーシップ型雇用」は、企業への帰属意識が高く、チームワークに優れた同質的な人間を集め、従業員の思考や行動の「ベクトル」を揃えることを可能にしてきた。こうした特徴が企業の中の各部門との連携、調整を綿密かつ円滑にし、さらに、電機・自動車分野のような、継続的な品質向上と大量生産により市場拡大を目指す「すり合わせ型」の製造業における高い国際競争力の獲得に貢献した。潤沢に供給される若い労働力と市場の拡大を前提とした同質的な商品の漸進的・継続的な品質向上・低価格化・大量生産を生んだ経済産業構造に日本的雇用システムはマッチしていたし、その維持・発展に貢献してきたといえる。
だが、90年代に入り、バブル崩壊以降、経済は〝低空飛行〟を続け、潜在成長率も低下すると同時にその不確実性も高まることとなった。少子高齢化で労働力人口も減少に転じる中、将来に向けて安定的な高成長・市場拡大を期待することが難しくなった。日本のお家芸であった「ものづくり」はサービス経済化の進展により地盤沈下するとともに、消費者の嗜好は多様化していった。また、「メンバーシップ型雇用」の下で、……
◇◆◇ この続きを読む(有料) ◇◆◇
◇◆◇ 特集の購入はこちら(有料) ◇◆