NATOやEU、さらに米国のビッグ・テックもウクライナを支援してきた。ロシアによる侵略の数カ月前には、米軍のサイバーコマンドの前線チームとEUのサイバー即応部隊、民間の専門家がウクライナに入り、通信ネットワークやインフラに隠されていたマルウェアを探索・破壊し、ウクライナのサイバー防衛力を強化した。
日本も見るべき、デジタル変革を可能にした所以
ウクライナのDXを可能にしているのは、人的財産である。そもそもウクライナは技術部門の教育が盛んで、ハイテク分野は近年大きく伸び20年には20%の成長を見せた。
上述の通り、ゼレンスキー大統領は就任とともにデジタル変革庁を設置し、政府業務や市民サービスの完全デジタル化を図ったが、その担当大臣に任命したのは若干31歳のミハイロ・フェドロフである。同氏は米国国際開発庁の基金を利用しIT構築イニシアチブを創設、大統領選挙ではゼレンスキー氏のデジタル担当アドバイザーを務めた。フェドロフは、会社設立、マーケティングやソーシャルメディアの専門家、コンピューター・プログラマーたちをデジタル変革庁に採用した。
米国やNATO、EUから技術や予算の支援を受け、情報収集システムをNATOの基準に合わせることで、戦中でも情報ばかりでなく、物理的、技術的支援を受けやすくなっている。フェドロフやデジタル変革庁のメンバーはビッグ・テックなどに人的ネットワークを有し、いわば共通の「IT言語」を共有することで、的確なアドバイスや支援を迅速に受けることができる。
ウクライナ戦争は、欧州や日本に安全保障体制の見直しを迫っているが、ウクライナのDX体制の有効性は日本にも大いに参考になるのではないだろうか。ウクライナが外部支援に頼るだけでなく、まずは自前で体制を整えてきたことは、米国からも高く評価されている。ウクライナは、技術革新、DXやサイバー対策、情報管理と発信といった現代の「武器」をいかに攻略し活用できるかが平時には成長を促すだけでなく、有事には効果的な防衛体制につながることを示している。