2024年4月19日(金)

山師の手帳~“いちびり”が日本を救う~

2022年4月10日

ロシアのレアメタルの正体

 さて、ロシアが世界市場に影響を与えるレアメタル業界ではどのようなことが起きるだろうか? 主要鉱産物ではニッケル、コバルト、金、タングステン、白金族元素(特にパラジウムとプラチナ)である。安価な電力を利用して生産しているチタン、アルミ、銅なども競争力はずば抜けている。

 先述したように、白金族元素のパラジウムは世界の約4割をロシアが握っている。ニッケルも世界最大の生産者で21.4%のシェアだ。その生産基地はロシアの北部のノリリスク・タルナフ地域で採掘と精錬を行なっている。

 ロシアは、白金やパラジウムなどの白金族元素や、ニッケルなどのレアメタルが豊富な国で、2020年のパラジウム生産量はロシアが82㌧と、世界の43%を占めた。ロシアのパラジウムの生産の最大手は、ノルニッケル社である。

 ノルニッケル社はNASDAQとRTS株式市場に上場しており、オリガルヒ(新興財閥)として知られるインターロス社(鉱業、エネルギー、金融、小売りなどのコングロマリット)のウラジーミル・ポターニンとルサール社(ロシア・アルミニウム)のオレグ・デリパスカが大半の株を保有している。

 2000年代に経営は安定化し07年には世界第10位のカナダのLion Ore Miningの買収(約64億㌦)に成功し、世界最大のニッケル生産企業となった。アフリカや豪州のニッケル資源を囲い込むことも積極的であった。このような事実は、日本でなかなか話題になることはない。

ノルニッケル工場訪問記

ノルニッケルの工場

 ここで、ノルニッケル社の工場を訪問した際のことを紹介したい。私自身、日本で唯一、同社との長期契約でニッケル輸入に挑戦したが、品質管理問題クレームなどが発生して日本の需要家との調整で大変な思いをさせられた。

筆者(右)

 ノルニッケル社は、EV(電気自動車)用電池の主要素材であるニッケルの世界の年間生産量の約5%を占め、また触媒コンバーター(排ガス浄化装置)や半導体に使われるパラジウムの年間生産量の約40%を担っている。

 パラジウムについては、ロシア国内での生産を一手に担っている状況だ。さらに、コバルトや銅などの遷移金属も供給している。

 私がコラ半島のノルニッケル工場(モンチェゴルスク地区とセヴェロニッケルコンビナート)を訪問したのは2019年6月だった。6月といってもまだ肌寒く厚めのコートが必要な気候であった。日本の需要家2人とモスクワからはノルニッケル社の貿易担当2人、そして当社、アドバンスト・マテリアル・ジャパン(AMJ)2人の総勢6人がチャーター機で向かった。

 一般の旅行者の訪問は政府の許可が必要であり、われわれも工場見学の希望を要請してから1年が経過していたほどの特殊な地域である。訪問の最大の目的は電気ニッケルとコバルトの精錬所見学であったが何よりも現場で技術交流や品質管理の問題点を確認することに関心があった。ニッケル板をカットする設備やロット管理法やパッキング設備や分析機器なども見学した。

 現場に入って感じたのは、日本企業の管理手法に比べるとノルニッケル社の管理は大雑把な印象があったが、世界一の生産量を誇る工場だけに技術者は日本的な細かすぎる管理手法は聞く耳はない様子だった。

 また、契約概念については基本的に欧米流で「contract is contract」でありクレーム交渉の余地は少なかった。北方領土交渉や日露漁業交渉でも毎回辛酸を舐めてきたのは、こうした背景があるのだ。

 例えば、安倍晋三元首相が27回もプーチンと会談してもお互いは「ウラジーミル、シンゾー」と呼ぶ関係になっても、何の結果も残せなかった現実と実績を見れば分かるだろう。

 われわれは、日本的な友好的関係を構築すればお互いの理解と友情が深まると安易に考えるかもしれないが、日本人的発想は通用しないことを理解するべきである。

 かつて私は、北緯59度33分の約7万人が住んでいるシベリアのマガダン市に金鉱資源探査の目的で行ったことがあるが、ノリリスクはさらに北に位置する北緯69度20分の極寒の地である。


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