2024年4月27日(土)

山師の手帳~“いちびり”が日本を救う~

2022年4月10日

 ノリリスク中心街ノルニッケル社が操業する世界有数のニッケル鉱山があるほか、銅やコバルトなど種々の金属を産し、冶金業が盛んである。ノリリスクは、1年の大半が雪に覆われるなど、人間が住むには非常に厳しい環境である。

オリガルヒが支配する特殊な企業体

 西側への影響が大きすぎるノルニッケルや天然ガス石油企業は、制裁対象には入れないのが実態であり、西側諸国も特別扱いをしている。パラジウムやニッケルは制裁対象になっていないので、現時点では需給面ではまだ問題にはなっていない。3月以降に国際市況が高騰したのは不安心理から買手がポジションを増加させたからである。メディアの一部が煽ったこととも無関係ではない。

 実取引を見る限り現時点では単なる投機の対象となるだけでロシアがパラジウムやニッケルを対露経済制裁措置に対する報復に利用するといった動きはなく、現時点では大したことはないというのが私の見立てである。

 なお、LMEのニッケル取引停止に至った混乱は別稿で検証したいと思う。

 さて話をパラジウムの相場変動に移したい。確かに3月上旬までの1カ月間でパラジウムの国際価格は急騰した。1トロイ・オンス(約30グラム)あたり3000㌦超と、侵攻前に比べて1000㌦近く上昇し、瞬間的には過去最高水準を更新した。

 ただ20%や30%の高騰はこれまでもあったから現在は自律反落している。例えば年初の1月4日が1869㌦だったが、3月8日のピークが3339㌦(+79%)。逆に4月1日には2275㌦に(高値から32%)軟化している。

 つまり、停戦合意の先行きが見えてきた4月に入ってから市況は、続落しており徐々に沈静化して行くと予想される。引き続き今後の動向を見守っていきたい。

 ウクライナ紛争に関わる先進国の対ロシア制裁措置やロシアの報復制裁措置によって、それらの供給遮断や価格高騰は、世界の経済活動に幅広く打撃を与えると誰もが予想したが実際にはそれほどの激震が市場に広がったわけではなかった。

オリガルヒの生みの親

 ノルニッケル社のCEOウラジーミル・ポターニン氏は、オリガルヒであるが、メインオフィスはスイスにある。ポターニン氏は、エリツィン政権下でロシア副首相を務め、旧ソ連崩壊後の民営化を推進し、同国のばく大な資産の多くをオリガルヒの支配下に置く役割を果たしたが、巨額の資産は海外に逃したはずだ。

 確かにロシアのウクライナ侵攻への制裁措置として、先進国は、オリガルヒの何人かを制裁対象としている。しかし、ポターニン氏はなぜかその中に入っていない。おそらく国籍も未確認だが、多重国籍を保有していつでも海外に逃げる用意はしているのではないか。

 さて、ポターニン氏もプーチン大統領を支えている立場だが、副首相を務めていた時代に、民営化を推進した。その時にちゃっかりとノリリスクを乗っとっていたのだが、プーチンに裏金が流れたのは誰も口には出さないが、公然の秘密とされる。最大のロシアの資産は天然ガスと原油資源だから、プーチンはニッケルにまでには手が回らなかったのかもしれない。

 西側の制裁案は、原油、天然ガスは西側にとってもジレンマがあるので扱いが微妙だが、ボターニン氏のノルニッケルも規模が大きすぎるため制裁案からは外したと見るべきだろう。

 パラジウムの調達に支障をきたす以上に、パラジウム市況が暴騰してしまえば、自動車メーカーなど日本企業に打撃は大きい。日本は国内で利用するパラジウムの3割程度はロシアに依存しているとみられるが、ノルニッケル社およびポターニン氏が直接制裁対象となっていないことから、現時点では企業のロシアからのパラジウム調達に支障は出ていない模様だ。

 今後については、ロシアからのパラジウムの調達が遮断される事態も考えられるが、南アフリカなど他の国からの調達を拡大する余地はあるだろう。また、自動車メーカーなどでは、パラジウムの在庫を積み増しているのですぐに生産活動が制約される事態は起こらないと見られる。

 1台のガソリン車に使うパラジウムは、平均で3㌘前後とされるが、パラジウムのコストは1台当たり、年初の2万2300円程度から、3万6500円程度へと上昇した計算となる。

 先進国へのロシアからのエネルギーや貴金属、レアメタルの供給が停止しないように注意して制裁範囲を決めても、市場は先行きとして、制裁が強化されていく可能性があれば、投機に動き、価格が急騰することはよくある。

 ただし、情報に踊らされないことが大事になる。リサイクル、リュースやリデュースにより使用量は低減できる。歯医者が値上げするために騒ぐかもしれないが、パラジウムの代替品はいくらでもある。セラミックもそうだ。

 自動車触媒もパラジウムが不可欠というわけではない。また、ロシアは高度なチタンの技術力を持つが、ウクライナがチタン技術の原点であり、チタン資源と高付加価値な鍛造材や機械加工品に強いことも忘れてはならない。

 さて、次回は「ニッケル」について、ウクライナ戦争の背後で、中国のある企業が大損をした話をしてみたい。

   
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。


新着記事

»もっと見る