Inside Russia

2013年3月10日

»著者プロフィール

 ボリショイに「内紛」がつきものだったことも数々のダンサーが吐露しており、名プリマ、マイヤ・プリセツカヤも自著で自身のユダヤ系の出自を内部で咎められた経験を打ち明けている。

 しかし、多くのOBたちが、「仲間に身体的危害を加えるようなことはなかった」とも証言した。

 まるで映画の世界のような前代未聞の硫酸襲撃は、当初から身内犯行説が浮上した。実行犯と指示した人物は違うというのも有力な説だった。

 それだけに、上司にあたる芸術監督の襲撃はボリショイダンサーに大きな衝撃を与えた。

総支配人から「劇場の腫れ物だ」
と言われたトップダンサー

 事件の発生はボリショイのトップダンサーにあたるプリミエルのニコライ・ツィスカリーゼ(39)と劇場運営陣の対立を浮き彫りにさせた。

 ツィスカリーゼとフィーリンは年も近く、ボリショイを引っ張るライバル同士だった。ツィスカリーゼが、イクサノフ総支配人の力により、自分の同等の相手が目上の立場に就いたことに不満を抱いていたのは想像に難くない。

 フィーリンは「新しいボリショイ」を求めて、公演演目やダンサーの起用にも改革をもたらした。しかし、ソ連時代の伝統を重んじるツィスカリーゼはそれが気に入らなかった。

 多額の資金と時間を要して完成した劇場本館の改修にもツィスカリーゼは「芸術文化を破壊している」と批判してはばからなかった。事あるごとにイクサノフやフィーリンのやり方に楯突き、とうとう、昨年11月には、ツィスカリーゼと仲間たちが、ツィスカリーゼを芸術監督に任命し、イクサノフを劇場トップの職務から解任させるようプーチン大統領に共同署名書を出す事態に至っていた。

 真っ先に事件への関与を疑われたツィスカリーゼは何食わぬ顔で自分は全く関係ないと一蹴した。

 「何者かが自分への疑いを作り上げたのだ」。そして、フィーリン個人に責任があるような言い方をして物議を醸し出した。

 イクサノフもそれに呼応するかのようにツィスカリーゼのことを語り、メディアを通じた両者の非難合戦となった。

関連記事

新着記事

»もっと見る