2024年4月20日(土)

オトナの教養 週末の一冊

2022年5月14日

いまだ沖縄が抱えるシビアな現実

 終章で著者は、沖縄返還が日本をどう変えたのかについて考察する。そこでは、影響の最たるものは「日米同盟」の深化であり、安全保障面での日本の役割分担だったと指摘する。有事の際は一般の国民にも直接の被害が及ぶ危険性が現段階で既にあるということであり、その意味で重大な安全保障政策の転換が行われていたことを認識すべきだと強調する。さらに近年の日米の軍事協力も、米政府が繰り返し日本に要請したことに応じる形で進んできたとも言及する。

 こうした中で、今も沖縄に米軍の基地が集中し、地域の人々に多大な負担をかけていることを著者が深く懸念し、心情的に寄り添おうとする姿は印象的だ。

 沖縄が独り安保の負担を背負うことの矛盾を本土の人々も分かっているのに、現状は容認する。沖縄の人々が問うているのは、この本土の人々の〝他人事〟の意識でしょう。それは日米両政府が半世紀の間に形成した、「本土での安保の不可視化」と「沖縄での安保の集中管理」の所産です。

 著者はまえがきで、沖縄返還にまつわる「通説」を検証し、半世紀後の「答え合わせ」をすることが第一の目的、と書いた。本書の全体を通じて、細部にわたる丁寧な検証に脱帽するとともに、いまだ多くの問題を抱える沖縄のシビアな現実を本書であらためて広く知らしめる意義は大きい。そして最終章に記された、「『沖縄』そのものは半世紀を経ても、まだ戻ってきていないのかもしれません」という締めくくりの一言は、読む者に重く響く。

   
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