2024年4月25日(木)

オトナの教養 週末の一冊

2022年5月14日

 1972年の沖縄日本復帰から5月15日で50年になる。今春始まったNHKの朝の連続テレビ小説でも舞台になるなど、今年は沖縄が注目される年である。復帰後も長い時間の中で、沖縄をめぐってはさまざまな出来事があった。若い世代にとって沖縄はリゾート地のイメージが強く、長らく米国の施政下にあったことを知らない人も多い。さらに、覇権主義的な大国に隣り合っている中で、日本の安全保障の面から沖縄は重要な地でありつづけている。

沖縄返還は、当時の佐藤栄作首相(左)とジョンソン大統領で知られざる交渉が行われていた(AP/アフロ)

 復帰50年の節目のタイミングで刊行された本書『沖縄50年の憂鬱 新検証・対米返還交渉』(光文社新書)は、練達のジャーナリストが、近年相次いで解禁された日米の機密文書を詳細に調査し、実際は水面下で長い期間続いていた返還交渉を再検証した。

 沖縄返還は佐藤栄作首相の在任中に実現するが、既に知られているように交渉は密使を派遣する手法も交えつつ、時間と手間をかけて息詰まるやりとりを進めた様子が本書に記される。膨大な文書を丁寧に読み込んで分析している。

沖縄に関する問いを舞台裏とともに答える

 本書が興味深いのは、各章の項目ごとに「問いかけ」を行って、それに「答え」を出すスタイルを取っていることだ。いわば、「クエスチョン&アンサー」形式の問答の連続ともいえる手法である。

 各章あわせて17のテーマについてこうした記述形式を取っていることで、論点が何であり、その答えはどこから導き出されるのかが示され、読者の理解を助けている。具体的には、なぜ佐藤栄作首相は早期の返還にこだわったのか、密使外交は有効だったのか、沖縄返還は日本をどう変えたのか――などのテーマである。これらの一つ一つに舞台裏があり、多くの関係者がどのように動いたのかが示される。

 本書は佐藤栄作という政治家がなぜ沖縄返還を発議したのか、という点から説き起こされる。実は佐藤は沖縄返還を当初は看板政策にするつもりはなかったという。しかし、総理の座を狙っていた佐藤にとって、当時の池田勇人首相が内政に集中し、高度経済成長の恩恵で支持率が高い中、これに対抗していくには独自色を打ち出し、目先を変える必要があったと指摘する。そうした背景を踏まえてこう記す。


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