2022年11月27日(日)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2022年5月21日

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樋泉克夫 (ひずみ・かつお)

愛知県立大学名誉教授

中央大学法学部、香港中文大学新亜研究所、中央大学大学院博士後期課程を経て外務省専門調査員として在タイ日本国大使館勤務。著書に『華僑コネクション』『京劇と中国人』『華僑烈々―大中華圏を動かす覇者たち―』(以上、新潮社刊)など。

[著書]

中国に悩まされる一面も

 どうやら、中国政府系企業を巻き込んでのドゥテルテ政権版の「クローニー資本主義」とでも言えそうな状況が見られた。

 同報道官発言に同調したのが、マニラ市のイスコ・モレノ市長である。同市長は9月9日、「わが国は主権国家であり、フィリピンの法律を犯さない限り、マニラ市おける中国企業の活動を認める」と、ドゥテルテ政権支持を打ち出した。ここでは、同市長がフィリピン政界の次代を担う人材と評価されていた点に注目しておきたい。

 それから40日ほどが過ぎた10月20日、一部上院議員が「17年以来、約300万人の中国人が不法入国し、移民局関係者が400億ペソを不正に入手した」と暴露する。ドゥテルテ政権の対中姿勢に異議を表明したと受け取れるが、同時にフィリピンも大量の中国人不法入国者に悩まされていることが明らかとなったわけだ。

 その前後のことだが、タイの華人系メディアはフィリピン共産党が反中武装闘争に乗り出したと報じている。「フィリピン国内に7カ所の軍事基地を建設し、フィリピンの主権を侵し、海洋資源を掠奪する中国企業の活動を許すドゥテルテ政権を打倒せよ」と、傘下武装組織の新人民軍(NPA)を動員し、フィリピン国内で拡大を続ける中国企業の活動阻止を決定したというのだ。

 このように20年秋の2カ月ほどの短い時間をとってみても、フィリピン社会が中国企業と中国人への対応に苦慮していることが見て取れる。中国と中国人問題は政権や大企業のレベルを超えて、いわば草の根レベルにまで広がっていると見るべきだ。

 やはりフィリピンにおける中国問題は習近平政権の対外膨張路線からだけではなく、〝漢族の熱帯への進軍〟という中国の歴史的流れを背景にしているだけに、フィリピン一国での対応は容易ではなく、また非現実的だ。それゆえに政権交代といった短期的視点で捉えられるものでもない。むしろ中国の影響力がフィリピン社会全般に浸透している事実を知っておくことが重要だろう。

バイデン政権が動くも〝付け焼き刃感〟

 5月12、13日の2日間、米バイデン大統領は東南アジア諸国連合(ASEAN)の首脳をワシントンに招き、「ASEAN特別首脳会議」を行った。この席でバイデン大統領は「米国とASEAN関係に新時代到来」と宣言している。会議終了後、今年11月予定の首脳会議において米国とASEANの関係を「包括的パートナーシップ」に格上げすることが共同声明で明らかにされた。

 トランプ政権末期、ASEAN各国首脳を米国に招いての同種の会議が予定されていたが、折から各国がコロナ禍の渦中に苦しんでいたこともあり事実上は中止となったことを考えるなら、まさに隔世の感がしないわけでもない。

 こうみると中国のASEAN進出に対しワシントンの反撃が始まったようにも受け取れるが、それは早計に過ぎる見方だ。長期に亘ってASEANにおける中国の動きを追っている筆者の立場からするなら、やはり米国の対応は遅すぎる。〝付け焼き刃感〟は免れそうにない。

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