2022年12月4日(日)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2022年5月21日

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樋泉克夫 (ひずみ・かつお)

愛知県立大学名誉教授

中央大学法学部、香港中文大学新亜研究所、中央大学大学院博士後期課程を経て外務省専門調査員として在タイ日本国大使館勤務。著書に『華僑コネクション』『京劇と中国人』『華僑烈々―大中華圏を動かす覇者たち―』(以上、新潮社刊)など。

[著書]

 米中両国のASEAN関与の歷史を振り返って見れば、米国はベトナム戦争における手痛い敗北を喫した1975年以降、ASEANへの関与は消極的に過ぎ、むしろ中国の影響力拡大を見過ごしてきたと言える。

 これに対し、80年代以降、中国はASEAN諸国の国内不安要因であった中国系共産党との関係を積極的に断ち、それまでの「党と党の関係は国家と国家の関係に優先する」との外交方針を転換し、経済関係を軸のASEAN諸国との関係構築に努めてきた。

 この間、東南アジアにおける中国の存在感は拡大一途であり、いまやASEANを構成するどの国も単独で中国に対峙することは困難となった。フィリピンに即して考えるなら、たとえば南シナ海問題にしても、国際政治の面はもとより軍事的にもフィリピンだけで中国と渡り合うことは事実上不可能だろう。であるとするなら、ASEANは一体となって中国との関係を構築する道を模索するしかない。

 仮にフィリピンの新政権が親中路線を選択し対中関係を有利に進めようとしても、ASEANの結束を乱すことにつながり、結果的にはASEANの弱体化を招くことになる。とするなら、それは回り回ってフィリピンの長期的な国益には結びつかないはずだ。やはり一国だけの〝抜け駆け〟は許されない。

新政権の動きでなく、ASEAN全体を見よ

 中国はASEAN諸国に対し、これまでと同じように1対1の関係による両国関係の構築を強く求め続けるはずだ。フィリピン新政権に対しても同じであり、それは11日に習近平国家主席がマルコス次期大統領に送った当選祝賀電報にも現れている。習国家主席は敢えて「中国とフィリピンは一衣帯水の隣国であり、苦難を共にする仲間である」と記すことで、両国関係の原則を揺るがせにしないよう念を押したのである。

 たしかにASEANを構成するいずれの国も中国に対してだけではなく米国との関係においても、1対1では劣勢に過ぎることは誰の目に明らかだろう。やはり構成メンバーの10カ国が一体化してこそASEANとしての交渉力が発揮されるに違いない。両大国との交渉力を高めるためにも、一体化したASEANは必須条件だろう。

 であればこそフィリピン新政権としては親中路線に傾斜することなく、ASEAN重視の外交路線を歩むのが最も現実的な道と言えるはずだ。他のASEAN諸国も同じだろうが、どこか特定の1カ国の動向を捉えようとした場合、ASEANという塊を大前提にする必要がある。それがASEANを舞台に激化必至の米中角逐の趨勢を捉える道につながるはずだ。

  
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