都市で起こる〝地域に出たい〟福祉施設の事業
都市在住の筆者の両親は、真逆の環境に生きる。周辺には「ちょっと様子を見てもらえる人」がいないため、ある日突然、子どもに親の全体重がのしかかり、介護保険制度を駆使しまくった。普通の生、普通の死がいかに難しいかを痛感しながらの介護である。それでも、両親の歴史をどこまで遡っても地域とのつながりを作れた気がしない。
厚生労働省の掲げる「地域包括ケアシステムの実現」では、「2025年を目途に…可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進」するとある。前半部分には諸手を挙げて賛成したいが、それは地域のつながりという地盤の上にこそ構築しうるのだということを、これまでの取材を通じて再三確認してきた。そして、都市ではそんなつながりは希薄だ。そもそもつながりを求めない人々の集合体だからだ。
都市に生きる人々は、安心して生き切る環境はもう、作れないのだろうか。
「〝みんなでつながれる社会〟をつくりたい」という思いを軸に、地域コミュニティの下支えと福祉施設の運営とを隔てなく手掛けている福祉団体がある。神奈川県藤沢市の市街地で介護福祉拠点を運営するぐるんとびーは、要介護者でも自宅での生活が継続できるよう支援する小規模多機能ホームを団地の一室で始めた。同じ団地内に暮らすスタッフが「こんにちは」と共有廊下で声をかける高齢者は、ぐるんとびーの利用者であり、ご近所さんだ。
近隣にはぐるんとびーの看護小規模多機能事業所、訪問看護ステーションも開設されている。NPO法人ぐるんとびーも並行運営し、営利非営利の別なく地域課題に取り組む。
代表取締役の菅原健介氏は、「ぐるんとびーで働きたいと門戸を叩く人たちは、地域に出ることで看護・介護の選択肢が増える可能性を見出せるのではないかと考えている」という。公園での早朝ラジオ体操や団地内での野菜販売といった地域活動から、産後のリハビリやスポーツトレーニングといったスタッフが持っているスペシャリティを地域に還元するプログラムまで同社の取り組みは幅広い。拠点には日常的にこどもたちが出入りし、高齢者でなくとも地域住民がぐるんとびーにつながるきっかけは多い。