2022年12月5日(月)

21世紀の安全保障論

2022年6月6日

»著者プロフィール
著者
閉じる

吉富望 (よしとみ・のぞむ)

日本大学危機管理学部 教授

1959年生まれ。防衛大学校卒業後、陸上自衛隊に入隊。陸上幕僚監部、防衛省情報本部、内閣官房内閣情報調査室、防衛大学校教授などを経て2015年退官。拓殖大学大学院国際協力学研究科修士課程修了、博士後期課程(安全保障専攻)単位取得退学。主著に『防災をめぐる国際協力のあり方』(共著・ミネルヴァ書房)。

 国際社会から経済制裁を受けている北朝鮮は、こうした苦境を打開するために中国とロシアに支援を求めるであろう。一方の中国とロシアは、北朝鮮の苦境が長引いて大規模な国内混乱を招き、多数の避難民が国境を越えて流入するような事態を避けるため、北朝鮮に支援を提供せざるを得ないとみられる。

 また今後、北朝鮮が更なるミサイル発射や核実験を行って国連安保理が制裁強化決議案を採決しても、中国とロシアは米国に対抗するために拒否権を行使することは確実である。つまり北朝鮮にとって中国とロシアは強力な後ろ盾であり、両国に頼る以外の選択肢は見当たらない。なお韓国については、22年5月に成立した尹錫悦政権は北朝鮮に対する厳しい姿勢を標榜しており、多くの支援は期待できない。

中国とロシアの〝代理人〟となる北朝鮮

 現在、ウクライナ軍は米国を筆頭とする多くの国々から多大の軍事支援を得て善戦を続けている。この状況を米国対ロシアの構図で眺めると、ウクライナは米国の代理人としてロシアと戦い、多くの損害をロシアに与えていることになる。

 一方のロシアは、米国によるウクライナへの軍事支援を妨害する有効な手立てを持っておらず、ましてや米国に対して直接反撃することもできず、歯ぎしりしている状態だ。したがってロシアが、米国によるウクライナへの軍事支援を妨害する方策を考えるのは当然である。

 また中国としては、友好国であるロシアがウクライナ戦争の長期化によって疲弊したり、中国との協力に前向きなプーチン大統領の権威が失墜したりすることは、今後、共に米国に対抗する上で好ましくない。このため中国は、露骨にロシアを支援して国際社会における中国の立場を悪化させることは避けつつ、米国によるウクライナへの軍事支援を妨害して早期の戦争終結を目論むと考えられる。しかし、ロシアと同様に中国も、米国との直接対決は避けたいと考えていることは、想像に難くない。

 このように中国とロシアは、米国によるウクライナへの軍事支援を妨害するという目的を共有している。この際、両国は米国との直接対決を避けつつこの目的を達成するために、第三国を活用することを考えるであろう。そこで、制裁強化決議の阻止で恩を売り、併せて苦境を脱するために両国からの支援を渇望する北朝鮮がその第一候補となる。

 中国とロシアは、北朝鮮が大規模な挑発行為を行って米国の軍事的な関心を朝鮮半島に向けることを期待するであろう。具体的には、米国の同盟国たる日本や韓国への軍事的脅威を高め、米国に同盟国としての防衛責任遂行を強要することだ。

 しかし、これまで北朝鮮が行ってきた公海へのミサイル発射を繰り返しても、高い効果は期待できない。このため中国とロシアは、北朝鮮に対して日本や韓国に対する限定的な攻撃など、より烈度の高い挑発行為を求める可能性がある。

 これまでに北朝鮮は、10年の延坪島砲撃事件や韓国哨戒艦撃沈事件などの烈度の高い事件を起こした実績があり、これらと同等又はこれら以上の烈度の挑発行為も視野に入れる必要があろう。ただし中国とロシアは、過度の挑発行為によって北朝鮮が米国から大きな反撃を受け、北朝鮮から大量の避難民が流入するような事態を招かないよう釘を刺す面もあり得る。

 一方の北朝鮮は、日本や韓国に対して挑発行為を行えば中露両国から支援が期待できるとともに、国内の苦境によって高まる国民の不満を逸らすことができると考えるであろう。また、この挑発行為によって、北朝鮮に対して厳しい姿勢を見せている韓国の新政権を揺さぶる効果を目論むかもしれない。

新着記事

»もっと見る