2024年11月22日(金)

21世紀の安全保障論

2022年6月6日

 北朝鮮は6月5日午前(日本時間、以下同)、日本海に向けて短距離弾道ミサイル8発を発射した。多くの日本人は、こうした北朝鮮の挑発行為に慣れてしまって関心を失っている。しかし、ウクライナ戦争でロシアが苦戦する今、北朝鮮による挑発行為は新たな局面を迎えるかもしれない。

北朝鮮が5日、日本海に向けて8発のミサイルを発射した(AP/アフロ)

 北朝鮮が5月25日朝に大陸間弾道弾を含む3発のミサイルを発射したことに対して、翌26日の国連安保理は米国が主導する北朝鮮への制裁強化決議案を採決した。しかし、安保理常任理事国の中国とロシアは制裁の強化ではなく緩和を訴えて拒否権を行使し、本決議案は否決された。国連安保理は北朝鮮が1回目の核実験を行った2006年以降、対北朝鮮制裁決議案を過去10回採決していずれも採択されており、今回の決議案否決は異例である。

 今回の採決で中国とロシアが反対に転じた背景には、ロシアのウクライナ侵攻によって尖鋭化した米国と中露両国との対立が透けて見える。その中国とロシアにとっての喫緊の課題は、ウクライナ戦争の長期化に伴うプーチン政権の弱体化やロシアの国力低下を防ぐことであろう。そのためには、ウクライナ軍を支えている米国の軍事支援に歯止めをかける必要がある。

 他方、経済の悪化、食糧不足、新型コロナウイルス感染症蔓延などで苦境にある北朝鮮にとって、中国とロシアは国際社会からの制裁強化を防いでくれるとともに、苦境を脱するための支援を提供してくれる重要な国でもある。このため北朝鮮は、中国とロシアの意向を無視することが難しい立場にある。

 したがって、中国とロシアが北朝鮮に対して米国を軍事的にけん制する挑発行為を強く働きかけた場合、北朝鮮がこれに応じる可能性は否定できない。本稿では、ロシアのウクライナ侵攻によって尖鋭化した米国と中露両国との対立構図の中、北朝鮮が両国の意を体して日本や韓国に対する挑発行為を行うシナリオを考察する。

八方塞がりで中国とロシアを頼る北朝鮮

 北朝鮮は新型コロナウイルス感染症対策として20年1月に国境を封鎖したが、この結果、中国との貿易が急減して経済が悪化した。また、21年には干ばつや洪水によって農作物が大きな被害を受け、同年6月には金正恩総書記自身が、「人民の食糧状況は今、厳しくなりつつある」と述べている。

 22年1月には国境封鎖が解除されて中国との貿易は増加したが、北朝鮮国内では干ばつが更に深刻となり、食糧不足が加速した。こうした中で同年5月、北朝鮮は新型コロナの蔓延防止のため大規模なロックダウンを導入するとともに、再び国境を封鎖したため、北朝鮮経済は更なる打撃を被ることが予想される。このように北朝鮮は今、経済の悪化、食料不足、新型コロナ蔓延という三重苦に直面している。


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