この熱き人々

2013年4月12日

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吉永みち子 (よしながみちこ)

1950年、埼玉県生まれ。85年、『気がつけば騎手の女房』で大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞。著書に『母と娘の40年戦争』(集英社文庫)、『怖いもの知らずの女たち』(山と溪谷社)、『試練は女のダイヤモンド』(ウェッジ)などがある。

 学者として立つ研究テーマと第一歩を踏み出す方向が自分の中ではっきりしたものの、どうしたら分布図を作ることができるのか。空からの写真がほしい。ペルー空軍に撮影を頼んだら、1億円かかるという。とても無理。宇宙開発事業団(現JAXA)に勤めていた兄に何か方法はないかと尋ねたら、衛星画像が使えるのではないかとアドバイスを受けた。

 当時計画中だった人工衛星「だいち」の研究公募に応募して採択されたものの、肝心の衛星がなかなか飛ばない。ほかに何か手はないかと探している時、「世界ふしぎ発見」というテレビ番組がナスカの地上絵を取り上げ、ナスカ研究者としての協力を頼まれた。

 「そこで局の人からナスカの航空写真を見せられたんです。何でここにあるんだとギョッとしました。アメリカの衛星画像を売る会社から手に入れたと聞いて、さっそく頼んだらタダであげると言ってくれまして」

 そんな流れと並行するように、ナスカが世界遺産に登録され、山形大学への就職が決まり、04年に「ナスカ地上絵プロジェクトチーム」が誕生している。まるでナスカに向かってすべてが動き出したかのような展開である。とはいえ、広大なナスカ台地を衛星画像から1メートル未満の単位で精査するのは気の遠くなるような作業である。その過程で100点を超える新たな地上絵を発見し、世界初の分布図が出来上がった。

古代の情報統御とは

 全体像が見えると、これはいったい何のために作られたのかという最大の謎が深まる。地上絵の中心点からはたくさんの土器が発見されていることから、豊穣を祈る儀礼に使用されていたのではないか。50キロ離れた海から土器に入れた海水を地上絵まで運び、そこで割る。その行為は豊穣のために雨を求める儀礼ではないか。雨乞いの儀礼だとしたら、それはどんな根拠に基づいているのか。海の霧が山に移動して山の霧とぶつかって雨になるという言い伝えを、気象学の専門家とともに検証する。

 ナスカ地上絵プロジェクトは、地理学、認識心理学、情報科学などさまざまな分野の学者が加わって、分野を越えてアプローチするという学際的な取り組みにその特徴がある。

 「みんなでどっちの方向に行くか考えて進める。私なら絶対やらないことを提案されて、そういう方法もあるのかとやってみると思いがけない研究成果が出て、また先に進める。地上絵でなぜ消えているものがあるのかは私ならお手上げです。でも、水の流れを読んでいくと見る人が見ればその理由がわかるわけです。1人でできることなんてたかが知れている。みんなと一緒でなかったら、研究所もできなかったと思います」

 坂井自身が追い求める研究テーマは、文字をもたなかった古代アンデス社会で人々はどのようにして情報統御していたのか、地上絵にどんな意味が隠されていたのかを解き明かすことだという。

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