2024年12月11日(水)

Wedge REPORT

2022年6月24日

 色覚検査の方法は、2010年代以降、海外で大きなアップデートがあった。例えば、英国民間航空局(日本の国土交通省に相当)や米空軍では、それぞれ独自に開発した、PCスクリーン上での色覚検査を活用している。それらは、石原表のように「正常か異常か」を示すのではなく、色弁別能力をスコア化でき、タスクに応じて閾値を決める運用がなされている。英国では、民間航空パイロットの色覚条件として、かつて排除されていた「色覚異常」のうち3割から4割に実は適性があると分かり、すでに門戸が開かれた。

 下図には、英国の新検査の性能を評価するために、700人以上の被験者の色覚を測定した結果を示す。個々のドットが被験者個々人のデータを示している。横軸が赤─緑の弁別能力に関わるもので、左側が「正常」に近く、右に行けば行くほど先天色覚異常の程度が強くなると考えてよい。

最新の色覚検査(CAD)により、色覚異常の連続
性が明らかになり、石原表との不整合がみられた

(出所)『J. L. Barbur and M. Rodriguez-Carmona 2017 British Medical Bulletin』を基に筆者作成 写真を拡大

 まず気付くのは、ヒトの色覚は、「正常」と「異常」がくっきりと分かれておらず、連続的に分布していることだ。実は遺伝学的にも、石原表などで正常と診断される人たちの3割から4割は、実は網膜上の光センサーの特性が多数派と少し違う人(いわば「隠れ色覚異常」)だと1990年代から、さまざまな国、地域集団の研究で、繰り返し示されている。従来検査では〝見えなかった〟そういった人たちの事例が、新たな定量的な検査では、「間」をつなぐものとして〝見えた〟のかもしれない。

 いずれにせよ、色覚は、こと先天色覚異常にかかわる部分だけでも、「多様で連続的」である。これを知ると、「正常と異常」を明確に切り分けるのは難しいと分かる。英国民間航空局が、航空業務のタスク分析をして、そのタスクに必要な色覚を割り出した上で新たに基準を作った背景には、このような「連続性の発見」があった。

 さて、以上のような予備知識を持った上で、改めて同図を見てほしい。図に書き加えてある青枠と赤枠は、それぞれ石原表で「正常」「異常」とされた人が分布しうる範囲を示している。

 これを見て気付くのは、石原表による「正常」「異常」ともに大きなばらつきがあり、重なっている部分も大きいということだ。これはA群とC群が重なっているということで、B群についてはさらに重なりが大きくなる。この結果は、今回の宇宙飛行士候補の募集に限らず、石原表による判定を職業的な募集要件にすること自体、フェアではない可能性を示唆する。


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