2024年2月21日(水)

Wedge REPORT

2022年6月24日

 2018年には、危険標識、安全標識などに使われる日本産業規格(JIS)安全色の改定があり、世界で初めて、色のバリアフリーに対応したものとなった(下図)。また、比較的最近の話題としては、内閣府が定める「5段階の警戒レベル」の色の配色、気象庁のウェブサイトの配色など、公的な機関が色覚の多様性に対応する動きが目立ってきた。宇宙の新しい居住空間、就労空間でも、色のバリアフリーを取り入れる余地は大いにあり、それらは地上での取り組みの延長上にある。その際、日本で培われたノウハウは大いに役立つはずだ。

JISが定める安全標識の規格には「ユニバーサルデザインカラー」が採り入れられた

(出所)新JIS安全色普及委員会
(注)改訂JIS Z 9103:2018を基に作成した「一般材料の色による改正前及び改正後の色」 を図記号に表した例。印刷の都合上、実際の色指定とは色味が異なる場合がある 写真を拡大
 

 さらに、視覚研究のさまざまな面で、「正常」とされる3色覚よりも「強度の色覚異常」とされる2色覚の方が宇宙では有利な局面がある可能性も指摘されている。

 ヒトの多数派である3色覚の場合、網膜上に、デジタルカメラのRGBセンサーに例えうる3種類の光センサーがあって、その応答から色の感覚を得ている。一方、2色覚は、多数派より1つ少ない2種類の光センサーで見るため、識別する色の数は少なくなるものの、逆に色のカムフラージュに騙されにくいことがよく知られている。ヒト同様に、3色覚と2色覚が混ざって暮らす中南米のサルの研究では、3色覚のサルが森で果物を効率よく見つけるのに対して、2色覚のサルがカムフラージュされた昆虫を効率よく見つけることが実際に確認されている。進化生態遺伝子学を専門とする東京大学の河村正二教授らによる研究だ。

 加えて、2色覚は、時空間解像能(つまり、広義の視力)や明暗のコントラストの検出で有利になりうるメカニズムを持っており、日本の研究者によるものも含めて研究の蓄積がある。

 さらに2色覚が苦手なはずの色が関わる局面でも、むしろ有利な場合があると、最近、九州大学の研究チームが明らかにした。ヒトの3色覚は、多くの霊長類と共有する特徴で、森の緑の中で赤みのある果実などを見つけるのに適していたと説明される。それでは、緑っぽい背景や赤っぽい背景で、青─黄方面の色の違いを元に探索するときはどうだろう。ある条件下では、3色覚はむしろ成績が悪くなり、2色覚の方が効率よく標的を見つけられるのだという。研究を主導した九州大学芸術工学研究院の須長正治教授によれば、「3色覚で見るということは情報、シグナルが多いわけだが、同時にノイズも増えて対象を検出する際の妨げになる場面もある。だから、色がかかわる状況でも、2色覚が有利なことがあることを実験で確かめた」と説明した。

2色覚は宇宙に向いている?
進化の過程で獲得した真の多様性

 今回の宇宙飛行士募集は、月周回有人拠点「ゲートウェイ」や月面での活動を見越している。宇宙空間や月面のように色彩に乏しい環境では、色の識別よりも単純に「視力」が良いほうが有利だろう。あるいは、火星のような赤茶けた背景での探索タスクでは、2色覚の方が違う色のもの(例えば、遠くにある人工物)を効率よく見つけ出すこともあるだろう。

 そもそも、ヒトの集団の中に3色覚と2色覚が混在しているのは、森を出た霊長類であるヒトが、新たに出会ったさまざまな環境、例えば、草原、海洋、モノトーンで薄暗い時期が多い高緯度地域などにおいて、適応的な意味があったからだという捉え方がある。

 人類はおそらく、色覚を含めてさまざまな資質の多様性を生かして、新たな環境に挑み続けてきた。宇宙はその中で最新のものであろう。今回のJAXAの募集ではそこまで至らなかったわけだが、人類にとって新たなフロンティアである宇宙において、いずれ色覚を含めたまさに色々(●●)な多様性が花開くことを期待したい。

 
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