話し手・ティック・タム・チー
聞き手/構成・編集部 鈴木賢太郎
編集部(以下、――) コロナ禍では在日ベトナム人の支援活動をされたと伺いました。
チー 私は2011年の東日本大震災から今に至るまで、在日ベトナム人の生活困窮者への食糧支援・人道相談支援などを行ってきました。僧侶として、目の前に助けを求める人が現れたら、喜んで助け最後まで保護したいと思い、活動を続けています。コロナ禍では多くのベトナム人の留学生や技能実習生(以下、実習生)などが生活を継続することが困難な状況に直面しました。彼らの社会の中での立場の弱さが露呈してしまったといえるでしょう。多くの方の協力をいただきながら、今でも支援活動を続けています。
――多くのベトナム人の実習生が日本で働いています。
チー 彼らの多くは借金を背負って来日し、両親に裕福な思いをさせるために給与の大半を仕送りします。せっかく日本に実習に来ているので、技術や文化を身につけて、ベトナムに帰ってほしい。しかし、悪質な監理団体や制度を悪用し実習生に低賃金で3Kの仕事をさせようとする企業が存在し、中には日本に悪い印象をもって帰国してしまう実習生もいます。日本は文明度の高い国であるにもかかわらず、なぜそのようなことが起きるのかと感じることがあります。技能実習制度の欠陥といえるでしょう。
――今の日本社会をどのように見ていますか?
チー 日本ではとても便利な暮らしをすることができ、物質的に豊かな国だと思います。その半面、日本人は精神的に弱くなっていると感じることもあります。例えば、100円ショップがあるからこそ、何かモノが壊れてもすぐに買い替えようという発想になる。便利すぎる世の中が実現したことで、モノを大切にするという価値観が薄れていると思います。
また、食べ物やお弁当はコンビニやスーパーで簡単に手に入る分、そのありがたみを感じることがなくなっているのではないでしょうか? ベトナムには、「果物を食べるときに、その果物の種を育てた人たちの苦労を思い出しなさい」という諺があります。自分で苦労して食物を作り収穫して食べるという一連の経験をすれば、そのありがたみや大切さが価値観として身につきますが、今の多くの日本人はそうした経験をしていません。目に見えないところから恩恵を受けていること、それに対する感謝の気持ちを思い起こさなければならないでしょう。
特に、私が日本人に伝えたいのは、日本人の優れた性質である「勤勉さ」が失われつつあるということです。生活が豊かになりすぎて苦労する機会が少なくなっているのかもしれません。当然、3Kの仕事に就きたいと考える日本人はほとんどいないでしょうし、そうした仕事を実習生などの外国人労働者に任せているのが現状です。便利な暮らしの裏には、彼らの犠牲があることを忘れてはいけません。彼らを1人の人間として、労働者として受け入れ正当な対価を支払うといったことも検討すべきです。