3月中旬以降、技能実習生の来日ができなくなり、多くの農家が初夏以降の繁忙期の人手確保に頭を悩ませている。異業種で雇い止めにあった技能実習生を受け入れたり、代替人材を観光業や飲食業などから受け入れる動きを追った。
軒の高い連棟ハウスで、技能実習生の女性たちが一輪仕立ての輪菊の脇芽を黙々と摘み取っている。フィリピン人のエマさん(24)もその一人だ。愛知県内の農家で働いていたが、コロナ禍で経営が悪化し、6月、もう1人の技能実習生と共に大分県豊後大野市の菊の生産法人、お花屋さんぶんご清川に移った。「作業には慣れました」と笑顔で話す。
「本来なら技能実習生が9人いたんだけど、今はフィリピンとカンボジアの4人になってしまってね。インドネシアから11月に入国予定で、他にも技能実習3号(3年の実習を経て、一時帰国後に再入国して追加2年の実習を受けることができる)の再入国希望者がいるけど、まだ来られるかどうか分からない」
同社代表取締役の小久保恭一さん(68)はこう言う。農場は山がちな集落にある。6ヘクタール強の敷地に3.5ヘクタールの9棟の連棟ハウスが並び、年間350万本を出荷する。菊の生産者としては、かなり規模が大きい。農場を設立した2004年からパートの顔ぶれは変わらず、平均年齢が75歳くらいになっている。役員や、従業員や研修生ら16人とパート14人を擁するものの、それでは間に合わず、技能実習生の受け入れを続けてきた。
ところが、技能実習生の入国が止まり、人手不足に拍車がかかっている。今後、ベトナムやタイといった感染率の低い地域から入国が再開する見込みだが、8月までに技能実習生の新たな入国はごくわずかだ。一方、帰国は増えつつあり、より人が減ってしまう可能性もある。
「転籍も積極的に受け入れている。熊本県で溶接工をしていた中国人の技能実習生が、仕事がなくなったので、9月から移ってくる」(小久保さん)
秋から冬にかけ、冒頭で紹介した「芽かき」が増える。芽かきは作業全体の23%を占める、最も手のかかる作業だ。別のハウスでは、いくつもの花を咲かせるスプレー菊が出荷の時期を迎えていた。もともと輪菊のみ作っていたが、人手不足に対応するため、芽かきの不要なスプレー菊を増やした。
AIやロボットを使って
生産性を上げる
「2割をスプレー菊に変えた。それから、芽かきロボットを作ろうと、プラットフォームを立ち上げた」(小久保さん)
AIを使い、脇芽を認識し除去する移動式のロボットを、大分工業高等専門学校などと協力して開発する。将来、人材確保がより厳しくなることも見据え、人しかできなかった作業をロボットに置き換えようとしているのだ。