その土台になるのが、外国人の権利や義務、日本語教育、生活支援を行うことを明記した「在留外国人基本法」だ。韓国や他の先進国でも少子高齢化が進み、質の高い人材の受け入れ競争が始まっている。こうした中で「きちんとした受け入れ態勢を整えているということは、移民に対して重要なメッセージになり、日本の前向きな変化を世界に伝えることにもなる」(毛受氏)。
一方で日本人も意識を変えていく必要がある。移民と聞けば「犯罪が増える」「社会保障費が圧迫される」など、マイナスイメージを持つ人が少なくない。しかし、移民問題に詳しい東京大学社会科学研究所の永吉希久子准教授は「諸外国の調査を見ても、移民が犯罪を起こしやすいという調査結果は出ていない。〝移民だから〟犯罪を起こすということではなく、経済状況が悪化すれば犯罪が増えるということを認識する必要がある」と話す。
実際、外国人の犯罪件数は05年の4万3622件をピークに19年は1万5549件まで減少しているが、外国人居住者は約190万人から約283万人に増加している。外国人が増えても犯罪が増えるわけではない。
適正な賃金が支払われていれば、犯罪をする必要もないし、納税者として社会に貢献してくれる存在にもなる。つまり、移民の受け入れ側がどのような態勢をとるかということのほうがより重要なのだ。移民との共生は、アメリカなど先進事例からも分かるように簡単ではない。永吉准教授も「正解のある問いではない」と指摘する。それでも、すでに外国人への依存度が高い業種が存在するのが現実だ。「望ましい移民受け入れのあり方を議論するために、雇用や教育なども含めた広い視点から、私たちはどのような社会を作っていくのか」(永吉氏)、という問題に向き合う時に来ている。コロナ禍でしばらく外国人労働者が訪日することができない今だからこそ態勢を議論し、これまでのご都合主義に終止符を打たなければならない。
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Part 3 煽る報道、翻弄される国民 科学報道先進国・英国に学べ
Part 4 タガが外れた10万円給付 財政依存から脱却し、試行錯誤を許容する社会へ
Part 5 国内の「分断」を防ぎ日本は進化のための〝脱皮〟を
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