韓国の石炭火力比率は、ほぼ4割ある。さらに、原子力発電比率が約3割。日本との比較では、石炭と原子力が多い分、再エネと天然ガス火力の比率が小さい。
要は、コストが安い電源の比率が日本よりも多く、再エネ関連費用の負担額も少ない。韓国の産業用電気料金は、資源国米国、カナダよりは高いものの、フランス、天然ガス産出国イギリスを下回っている(図-5)。中国の電気料金は地域と産業により異なるが、平均では韓国とフランスの間にある。
韓国と中国の電源構成が、相対的に競争力のある電気料金につながることに加え、制度の違いもある。中国では電気料金について中央政府のコントロールがある。韓国政府は、電力の小売りを行う韓国電力公社を通し小売り料金を抑制している。
韓国では20年12月に燃料費調費制度の導入が決定したが、四半期ごとの調整額は1kWh当たり最大プラス・マイナス3ウォン(0.3円)に制限されている。昨年10月には、制度に基づき3ウォンの値上げが行われたものの、その後の値上げは見送られている。
韓国電力の21年12月期の赤字額は5兆8600億ウォンになった。最後には赤字額を税金で負担することになるが、韓国政府は電気料金抑制を続ける姿勢だ。
尹錫悦新政権は、前政権の脱原発政策を廃棄し、国内での原発工事と輸出を再開する方針だが、日本企業は韓国企業と輸出市場で競争できるだろうか。
韓国との競争に勝てるか
欧州では、ロシアのウクライナ侵攻以降、エネルギー安全保障に関する世論が動いている。4月に行われた独公共放送連盟の世論調査では、今年末に予定されている脱原発の中止を求める意見が53%と過半数を超えた。25年の脱原発を止め35年まで原発を使い続けることを決めたベルギーでは、小型モジュール炉(SMR)による原発新設まで支持43%、10年の運転延長支持だが最終的な脱原発支持30%、即座の脱原発支持は9%だった。
ロシア・ロスアトム製原発導入計画を今年3月に破棄したフィンランドでは原子力発電を強く支持が34%、どちらかと言えば支持が26%に対し、強く反対3%、どちらかと言えば反対8%。世論の変化もあり、欧州諸国が原発の建て替え、新設に動く中で、ロスアトムが設備を受注することは考えられない。
さらに、中国依存を警戒する声も欧州内で高まっており、中国製を検討していると伝えられる中東欧諸国の中からフランス製、米国製を選択する国も出てくるだろう。米国、英仏などが開発を進める小型モジュール炉(SMR)が今後導入されるケースも増えてくると予想されるが、製造と輸出に関し米国は韓国との協力に傾き始めている。
5月下旬のバイデン大統領の訪日時の日米共同声明では、簡単に「原子力の重要性を認識し協力を拡大。SMRの開発及び世界展開を加速させる」と触れらたが、米韓共同声明では、原子力に多くのスペースが割かれ「共同での輸出促進による先進炉、SMRの開発に関する協力関係強化。輸出市場でのさらなる協力」など踏み込んだ内容となっている。
日本企業も協力関係にあるニュースケール社のプロジェクトには、既に参画している韓国企業に加えサムソン物産も出資し提携することが5月に発表された。またビル・ゲイツが会長を務めるテラパワー社と韓国SKの事業提携も発表された。
韓国新政権は、30年までに10基の原発輸出目標も発表している。脱炭素発電設備の世界市場のうち、中国企業は風力発電設備製造シェアの過半を握り、太陽光モジュール製造シェアの7割を握る。残る原子力の輸出市場獲得に向け、日本企業は今後成長が見込まれるSMR市場を米国企業と協力し開発する必要があるが、その前に、韓国企業と競争しなくてはいけないようだ。
日本の電気料金が韓国の2倍。さらに、電気も自由に使えないでは、競争は不利だ。官民ともに原発の再稼働に向け人員を投入し、早期の再稼働により安定供給を確保する一方、電気料金の引き下げを図らなければ、東アジアの競争を勝ち抜くのは困難だ。
地球温暖化に異常気象……。気候変動対策が必要なことは論を俟たない。だが、「脱炭素」という誰からも異論の出にくい美しい理念に振り回され、実現に向けた課題やリスクから目を背けてはいないか。世界が急速に「脱炭素」に舵を切る今、資源小国・日本が持つべき視点ととるべき道を提言する。
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